白ひげ海賊団の食堂。
そこへ足を踏み入れれば、本当に船の食堂?と、疑問を浮かべてしまうほど奥行があり、テーブルや椅子の数もとても多い。
そう、大家族。まさに、大家族の食堂。
エースと二人で夕飯を頂きにきたけれど。
部屋の広さと人の多さに驚いてしまう。
手を握られたままカウンター席へ向かえば、
サッチさんが「よぉ!」と、顔を出してくれた。
「今回は呼ばれなくても来たな!えらいぞ!」
「呼ばれなくても来たっての。サッチ、飯ぃ」
「なぁ、リオちゃんは何が好きー?」
エースを完全に無視して私に問いかける。
笑顔が素敵ですね、サッチさん。
どうしよう。何が好きか。こういう時にパッと思いつくのはオムライス。そう、オムライスだ。
周りの皆さんをチラリと盗み見れば、結構な方が骨付きのお肉…の、塊…?を口にしていて。
「ワイルド…!」
「リオちゃんはやめとけ?あれはとにかく肉を食えればいいっつー、繊細さに欠ける野郎共が食うものだ。大丈夫、なんでも言ってくれ。このサッチさんが腕を奮っちゃうぜ!」
「サッチ、飯ぃー」
「エースは肉でも食ってろ」
「はぁ?扱いの差を感じる!」
「ッたりめーだ馬鹿!おめーとリオちゃんを一緒にするわけねェだろ馬ァ鹿!!」
「その髪燃やすぞ…」
二人のやり取りを苦笑いしつつ聞いていた。
何かリクエストせねば。
やっぱり浮かんだものを言ってみようかな。
「あの、サッチさん。オムライスを…」
「えっ」
「えっ」
「??オムライス…でも、大丈夫ですか?」
「おう!喜んでェ!!!」
潤いだ!一面に広がる砂漠にオアシスが!
おれは今!潤いを得た!!!
何か大声で叫び、クルクルと謎の舞を披露しながら厨房へと向かうサッチさん。
いや、だいぶ恥ずかしいんですけど!?
皆さん笑ってらっしゃるし!なんなの!?
「オムライスかぁ」
「何が好き?って聞かれたから…」
「おれも含めて好きな食べ物は大抵肉だからな。
サッチも料理のやりがいが出来て喜んでんだよ」
ものの数分で右手にオムライス、左手にお肉の塊が乗った炒飯を持ってサッチさんが現れた。
ケチャップライスの上にぽってりと乗った卵。
それにナイフを入れていけば、トロッとご飯を包んでいく。すごく、すっごく美味しそう!!
「どうぞ、リオちゃん!」
「うわぁ!卵とろっとろ…、いい匂い!何よりすごく美味しそう!わーい!いただきます!」
「くぅ、最高のリアクション…!」
「いただきまーす」
お…美味しい…!
なんでサッチさんは海賊やってるの?
お店を出せるしお金を払いたいレベルだよ!
スプーンが止まりません。
エースも黙々と食べていた。
…が。
ガシャン!!!
隣から大きな音と共に何かが倒れた。
何か、って、隣はエースしかいない。つまり、エースが突然倒れたってこと…。一体何が!?
「エース!ねぇ、ちょっと!大丈夫!?」
肩を揺すっても起きない。
助けを求めようと顔を上げれば、苦虫を噛み潰したような表情でこちらを見るサッチさん。
…なに、何が起きたの?どういうこと?
「リオちゃん、驚かないで聞いてほしい」
「は、はい!」
「エースは」
「エースは…!?」
「食事の最中に突然寝ちまうんだ」
……はい?
寝ちまうんだ?
これ、寝てるの?スプーンを持ったまま?
炒飯に顔を突っ込んだまま…寝てるの?
えええぇ!?特異体質がすぎるよエース!
こいつ突然寝て突然起きるから。
リオちゃんは気にしないでご飯を食べて。
そう言ってくれるサッチさんを見つめれば、
心配しなくても大丈夫!と笑ってくれた。
「エース、」
「っぶは!!寝てた」
「!?」
「きたねぇ!…エース。お前なァ、せめて皿を避けて机に顔面ぶつけろよ。料理を枕にするな」
「悪ィ悪ィ!…ん、どうしたんだ?リオ?」
まるで寝たのは私の気のせいだったかのように、モグモグと炒飯を食べ進めるエース。
本気で疑問符を頭に飛ばして私を見ている。
「サッチさん、ぬれた布巾をください」
「はーい。渾身の力でどうぞー!」
「エース!スプーン置いて!!」
「な、なんだ!?」
「突然倒れてビックリしたよ!!」
食事中に寝るなんて、赤ちゃんですかァ!?
バシーーン!!!と顔面に布巾を押し付けて、あちこちに付いた米粒を取ってあげた。
う"っ、とか。いてェ、とか。優しく…とか。
そんな唸り声が聞こえるけど手加減はしない。
心配させたんだから、これくらいは我慢して!
「そんな怒ることか?」
「初見でそんな奇行を見ちゃあ、ビビるだろ」
「そうですよ!ビビりますし怒ります!」
「まぁまぁ、ほら、口開けろ。はいあーん」
「むぐ」
口にお肉が入れられた。
…ゴロッと固そうな見た目に反してそれは柔らかく、筋もほとんどない。焼き加減も絶妙だ。
なにこのお肉、美味しい…。
ほぅ、と口元を緩ませて笑顔になってしまう。
「リオちゃん、かーわいいなー」
「おれの女だぞ」
「うるせェな知ってるよ!愛でさせろ!」
二人が何か言い合っているのを横目に、
私はオムライス完食へ集中することにした。
料理出来るっていいなぁ、苦手な私からすると
とても憧れるスキルだよ。しかも美味しい…。
こんなご飯を毎日食べられるこの船の皆さんが、羨ましいとさえ思う。胃袋を掴まれました!
***
綺麗にお皿を空にして、食器も片付ける。
サッチさんに直接お礼を言い、食堂を後にした。
船の主要な場所を覚えるため、まずは一度エースの部屋へ。ここを覚えなければ始まらない。
一番大事なナースのお姉様方の部屋。甲板、食堂、本の保管庫への道。マルコさんの部屋も。
何度かエースの部屋を拠点に行ったり来たりしていたら、すっかり日が暮れてしまった。
手元のメモ帳も見れなくなってしまう。
「暗くなってきたね。今日はここまでかな?」
「大丈夫、ちょっと待て」
メモ帳の近くに人差し指を出したエース。
何をするんだろう?
次の行動を待っていたら、指から火が出た。
ぼう、と燃える赤い炎。
「な!なんで、火が!?」
「へへ、おれはなんだかすごい人…だぞ!」
「あっ!そうだった、能力者だ!」
「ちゃんと学んできたみてェだな?そうさ、おれはメラメラの実を食べた、炎人間だ。能力者のおれは熱くねぇけど、リオは普通に熱く感じるからな。火を出してる時は触らないように頼むぞ!」
「炎人間…!エースも鳥になれるの?」
「鳥はさすがに無理だ」
それはマルコ特有の能力!
おれは“火”。自然の火そのもの。
ストライカーも、おれの能力で動いてたろ?
…あの時は下を見る余裕なんてなかったか!
リオを抱えるから、今度一緒に乗ろうな!
チラチラ、燃える火がエースを照らす。
いたずらっ子のように笑うエースが見えた。
なるほど、全身が火。炎。
だから冬島でも上着はいらないし、寝巻きも必要がない。上半身裸の理由がやっとわかった。
「エースが温かいのは、そういうことかぁ」
「人間湯たんぽにもなれるぞ!」
「夏は離れるパターンだね」
「…夏もくっつきてェんだけど?」
「ふふ、暑くなりそう!」
ふっ、と指の炎が消える。
「キスも熱いの?」
「してみるか?」
「する」
ちゅ、軽く唇が触れた。
「すごい、熱くない!」
「…そりゃあな。炎のままじゃ触れねェよ」
「…ねぇ、エース。メモの続きは?」
「陽が登ってからまた案内するし、付き合う。
続きなら、昨夜の続きをしたい…ん、だけど」
ダメ?
首をコテンと倒して尋ねるエース。
ナースのお姉様たちに怒られたのが相当堪えたのか、お伺いを立てる姿に笑ってしまう。
「ダメじゃないよ」
「体はキツくないか?」
「うん。今のうちにたくさん愛してもらうの!」
「おれはずっと愛するつもりだぞ」
「…ありがとう、嬉しい」
真っ直ぐな言葉が胸に響く。
エースの隣は温かい。ずっと、ずっと。
隣にいたいな。そう願わずにはいられない。
手を繋いで。指を絡めて。
二人でエースの部屋に入って行った。