26

翌日。
朝早くにビスタさんが現れ、爆睡しているエースの首根っこ…というか、首に掛けている赤くて丸いアクセサリーを引っ掴んで出て行った。
今日は隊長たちが集まって今後の航路のことを含めた、様々な話をするそうだ。定期的に行っているらしいが、エースはいつも誰かしらが引きずって連れて行くとのこと。しっかりね、エース…。

私はナースのお姉様たちの部屋へ御手洗を借りに行き、その帰りにエースの部屋の前でのんびり海を眺めていた。遠くで魚が跳ねている。

「お前が、リオか?」
「はい、そうです!…すみません。まだ皆さんのお名前を……あなたはティーチさん、ですね?」
「?おれを知っているのか?」
「イゾウさんからお聞きしていました!そして、悪魔の実にお詳しいということも!」
「ゼハハハハハ!イゾウか、なるほどなァ! しかしなんだ、悪魔の実に興味があるのか?」
「はい、非常に興味深い果物だな、と!」
「おれが答えられることなら、話してもいいぜ」

声をかけて来たのは、ティーチさんだった。
初めましてだけど、イゾウさんから特徴を教えてもらっていたのですぐにピンときた。
まぁ、立ち話もなんだから食堂へ行くか。
そう誘って頂いたので後ろをついて行くことに。
ティーチさんも身長、体格共に良いなぁ。
…海賊なんだから当たり前…なのだろうか?

食堂へ着いて、大きな丸いテーブルに座る。
隣に座られると後々のエースが怖いので正面に頼む。と言われ、申し訳ない気持ちになった。

「で、何を知りたい?」
「うーん、そうですねぇ…!マルコさんとエースの能力を聞いたんですけど、種類?とかあるんですか?炎でも、マルコさんは変身できて、エースはなれない。アレはなんなんでしょう?」
「なるほど。まず、姿を動物類に変えられる能力は“動物ゾオン系”と呼ばれている。マルコ隊長がこれに当たるな」

エースは姿そのものを自然の事象に変えられる能力。これは“自然ロギア系”と呼ばれる。
それともうひとつ、体が特殊な形に変わったり人智を超えた力を身につけられる能力。
これを“超人パラミシア系”と呼ぶ。
悪魔の実は、大まかにこの3つに分類される。

そこからまた、動物系は鳥や犬や猫系、幻獣種だったりはたまた古代種だったり。
その種類は多岐に渡るが、数は少ないらしく。

超人系は、腕や体がゴムのようになったり、全身から泡を出すことが出来たり、刃物のように肌を鋭く変化させたり他人の容姿を模写できたり。
現在は超人系の悪魔の実が一番多く確認されている、とのこと。

自然系はその名の通り火や氷、光、雲…。
通常の攻撃を通さず、当たらず、ほぼ最強と言ってもいいらしい。が、覇気というものを纏った攻撃は有効のようで、無敵ではない…と。
3つの種類の中でも、特に珍しいのが自然系。

「こんなモンだな」
「へぇぇぇ!本当に人間離れした力を持ってしまうんですね…。不思議な実、少し怖いです」
「随分昔からあるみてェだからな。悪魔の実は、一体どこからくるのか。どういう仕組みで能力が付与されているのか。それは分からねェ」
「間違って口に入れたら危ないですねぇ…」
「形や色で何の実かわかるのもあるけどな!」
「一人何個でも食べられるんです?」
「ゼハハハハ!そりゃあ無理だ、体ん中で実同士が喧嘩しちまうからな!二つ食べた奴が死んだって例もある。一つで満足しろってことだ」
「うわぁ、知れば知るほど怖い…!」

だがその分、価値は高ェぞ。
売り捌けば一生暮らしにゃ困らねェ額になる。
何をどう聞いても、危ない実という印象が消えないし、なんなら警戒心が強くなる一方だ。

「泳げなくなるのは…どうしてですか?」
「さぁなァ…。きっと、海は悪魔の力を持つ人間を歓迎したくねェんだろう。母なる海は悪魔が嫌いなんだ。海に落ちてきたら引きずり込んで飲み込んじまえ…って気持ちなんじゃねェかな」
「ひえええ!!」
「ゼハハハハハ!そうだなァ、もし見つけたら空腹であっても口にしねェことを勧めるぜ」

普通の人より強い能力を持っていても、海へと落ちたら力が抜け、普通の人より弱くなる。
それどころか海に引きずり込まれてしまう。
…なんだか皮肉な話だなぁ。
エースもマルコさんも、気をつけてほしい。
二人とも強いから大丈夫だとは…思うけど。

それからも、こんな面白い能力の実がある。
と色々な悪魔の実の話を聞かせてくださった。
本当にティーチさんは詳しい。

「ティーチさんは、能力者なんですか?」
「いいや、普通の人間だぜ」
「あ!もしや食べたい実があるんですね?」
「ゼハハ、わかるか」
「はい。こんなにお詳しいですからね、狙ってる実があるのかなぁと思いますよ!」
「そうだな、おれがほしいのは…」

そこまで言って、一度口を噤む。
…?どうしたんだろう。

「…お前にゃ、秘密だ!」
「えええ!?気になるのですが!」
「逆にお前ならどんな能力がほしい?」
「うーん、ううーん!」
「ゼハハハハ!真剣すぎやしねェか!」
「だって一つですよ?」

どむ!と机を叩いてしまう。
ちょうどそのタイミングで、サッチさんとエースが私たちの側に近づいてきた。サッチさんは手に何かが乗った大きなお皿を持っている。
どうやら話し合いは終わったようだ。

「リオが能力者になったら面白ェな」
「確かに、興味深くはあるな!」
「面白ェってなに!興味深いってなんです!」
「リオちゃんは怒っても可愛いなぁ〜!ほらティーチ、チェリーパイ作ってやったぞ!リオちゃんの分もあるぜ!エースにはねぇよ水でも飲め」
「サッチてめぇ!!」
「ゼハハハハ!おれのを少しやるよ!」
「持つべきものは優しい仲間だな!恩に着るぜ、ティーチ!」
「食いしん坊だねぇ、エースは」
「ねぇ〜〜」

サッチさんの機嫌がすこぶる良い。
楽しいならいいことだけど、私を見つめる目が
優しすぎてソワソワしてしまう!

がぶりとパイを一口。めっちゃ美味しい。
あまり食べる機会がないチェリーパイ。そんなお菓子を作れるサッチさんはスゴい。パティシエでも通用するのでは?美味しい。
チェリーパイを咀嚼しながら考える。
もし、わたしが能力者になったなら。

空を飛んでみたい。
自分を守れる力。誰かを守れる力はほしい。
雲になれるってどういう感覚なんだろう。
恐竜とかにも、なれるのかな。

ふと、隣に座ったエースを見る。
エースは火、炎。彼が海へ落ちてしまったら。

「…私は、能力者にならなくていいです」
「「「なんでだ?」」」
「だって、エースが海に落ちた時に助けられないじゃないですか。私が助けられるか怪しいですけど、浮き輪くらいにはなれると思うので…」
「リオ…!」

むぎゅう!と抱きつき擦り寄ってくるエース。
ひ…っ、人の前ですよ!!!
あわあわしていると、これまたサッチさんが
頬杖をつきながら優しく笑う。

「リオちゃん、おれも海に落ちたら助けてね」
「サッチは能力者じゃねェだろ。むしろ能力者よりもタチが悪ィ。勝手に船へ上がってこい」
「はァア??リオちゃんの愛を一心に受けているエースくんは余裕でいいですねェ!?てめぇ、次海へ落ちたら見捨てるぞ」
「リオが助けてくれるもんねー!!」
「よぉぉぉぉし、エース。表出ろ」
「ゼハハハハハ!!イイ女だなァ!」

エースとサッチさんが睨み合って、ティーチさんがお腹を抱えて笑っている。なんだこの空間。
これからもエース隊長をよろしくな!ティーチさんがチェリーパイを一切れ譲ってくれた。

再びチェリーパイをモグモグ食べながら、
悪魔の実について考える。
睨み合っていた二人は、いつの間にやら胸ぐらを掴み合っていた。…何してるんですか??
思考を止めて、ティーチさんと二人を眺めていたが、いよいよ止めに入らねばマズい。というタイミングでマルコさんが食堂へと入ってきた。

「なにしてんだよい、お前ェら」
「「マルコ!!!」」
「エースの野郎が!」
「サッチの奴が!!」

「…ティーチ、リオ」
「喧嘩両成敗じゃないですか?」
「おれもリオに同意するぜ」
「はァ…。お前ら、そこに正座しろ」
「「えええ!?ティーチ!リオ!!」」

お前らが騒がなけりゃ良かったんだろう!
いい歳して!時と場所と!周りの迷惑と!胸ぐら掴み合う理由を!考えて喧嘩しろ馬鹿野郎が!!

…怒られている。
マルコさんが言ったように、いい歳した男が。
背に青い炎が見える気がする。
苦労してそうだなぁ、マルコさん…。
私とティーチさんがチェリーパイを食べ終えるまで、二人はしこたま怒られていた。
…あとでマルコさんにお茶でも入れてあげたい。

怒られてシュンとしているエースの姿を、
苦笑しながら見つめていた。

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