31

目が覚めて、二日経ったある夜。
快気祝いに!と設けられた宴の席。

まず親父さまに開口一番、怒られた。
自分の命を粗末に扱うな…と。
リオがこの船や仲間を想って取った行動だと分かった上で、怒っている。と。
そして、敵の気配を察知出来なかったおれたちにも非がある。危険に晒してすまなかった。
そう言って、頭を下げられてしまった。
慌てて親父さまを止めれば、他の隊長の皆さんも同じように頭を下げていた。いやいやいや!
なんでですか!そんな、そこまですること…?
戸惑う私に、親父さまは
「家族を失わずに済んだ。それ以上に喜ばしいことはなく、おれたちは頭を下げる責任がある」
はっきり言い切って、私の頭を撫でた。
私も親父さまや隊長の皆さん、クルーの皆さんに向けて謝罪と感謝を言葉にし、深々と頭を下げた。本当に、なんて暖かい人達なんだろう。

「サッチさん!助けてくださって、ありがとうございました!」

海に落ちた私を追って飛び込み、引き上げてくれたのはサッチさんだとマルコさんに聞いた。
当のサッチさんは何故か目を泳がせている。

「おう、気にしなくていいんだぜ。おれは海へ落ちた能力者共を助けることに慣れてるからな!」
「…サッチさん」
「リオちゃんを襲った奴も、引き上げて捕まえたぞ!会うことはねェだろうから安心しろよ!」
「サッチさん、」
「じゃあ!おれさまの料理、味わってくれよ!」
「サッチさん!!」

全く目が合わない。
視界に入ろうとしても、ふーいと逸れていく。
離れて行こうとするサッチさんの手を取れば、
大きく肩を跳ね上げさせた。
一体どうしたっていうんです!サッチさん!!

「命を粗末にした私を、嫌いになりましたか?」
「!そういう、わけでは」
「それならどうして、目を合わせてくれないんですか?地味に傷つくんですよ!」
「うぐ、あー、それはだな…」

ようやく私を見て、すぐにエースを見る。
私もエースも意味が分からなくて首を傾げた。

「先に言っておくけど、故意じゃねェから」
「どういうことですか…?」
「助けた時にリオちゃんの…む、胸を、揉ん…いや、触ってしまって………ッエース!!!故意じゃねぇんだって!下心もねぇって!アクシデントなの!!でもめっちゃ柔らかかった〜!」
「一言多いんじゃねェか、サッチさんよぉ…?」
「…それは目を合わせづらいですよね…」

納得した。
気まずくて目を合わせられなかったんだ。
サッチさんは私と敵の二名を捕まえるために、海へ飛び込んでくれた。そんな状況で胸を揉んで…触って?しまったのは仕方がないと思う。
…揉んだのは仕方ないに入るのかな。いやでも!
生きているのはサッチさんのお陰なわけだし。

「リオちゃんは着痩せするタイプなんだなぁ…。手に収まりそうで収まらない、夢が広がる…」
「サッチ」
「すんませんっした」

ギリギリギリ…とサッチさんの胸ぐらを掴み上げるエース。顔を青くしたサッチさんの様子から察するに、エースは本気で怒っているようだ。
命の恩人なので、その辺にしてあげて…。

次はナースのお姉様たちの元へ。
看病から何から、たくさんお世話になった。
みなさん各々飲み物を飲んだり、食べていたり。そちらへ近寄って声をかけると。
ぎゅうぅぅっと数名から抱きしめられた。

「エース隊長!」
「リオちゃんの独り占めは良くないと思います!私たちの部屋へお泊まりさせてください!」
「リオちゃんはリアクションが豊かで、よく笑ってくれて…とても愛らしいわ。癒されるの」
「恋バナも真剣に聞いてくれるし!」
「リオちゃんの世界の話も面白いよね」
「エース隊長、独占欲強すぎじゃないですか?」

十人十色の言葉にたじろぐエース。
わぁ、なんだかこれも新鮮な構図。
屈強な男性達が多い中、ナースのお姉様たちはそれを上回る力をお持ちなのだと再確認する。

「言いたいことはわかったよ」
「さすがエース隊長!」
「でもダメだ。リオは誰にも譲らねぇ」
「言うと思いましたー!」
「…けど。月のものの時は、おれは何も出来ねぇ。辛そうだし、心配だから。そっちで過ごさせてほしい…とは、思ってる」

月のもの。つまり生理。
世界が違っても、ちゃんときましてね。
この世界にもナプキンっぽい物があってよかったけど、腰の痛みや鈍痛、気だるさは変わらず。その私の姿を知ったからだろう、エースは渋々…といった表情でナースのお姉様たちの提案を受け入れてくれた。毎月のお泊まりが決まった…!
わわ、嬉しいぞ!テンション上がっちゃうな!

「…待って本当にこの人エース隊長?」
「マネマネの実、誰か食べてたっけ?」
「うちの船にはいないわよ」
「「「あなた本当にエース隊長ですか?」」」
「だー!うるせぇ!!!撤回すんぞ!」

クスクス、ふふふ、と笑うお姉様たち。
うぅん。麗しい。
目的であった感謝の言葉を伝えたら、もう用は済んだ!とエースに手を引っ張られてお姉様たちの元から離れる。また細かく決めていきましょうね〜!その声に、手を振って応えた。

とりあえず、皆さんと話を出来たと思う。
お茶を片手にひと息ついた。
隣には、エース。今夜はずっと傍にいる。
構わず飲んできたらいいのに。
私はここにいるから行っておいでよ。
そう言ってはみるが、首を縦に振らない。

「今夜は私、お酒飲まないから」
「離れたくねぇ」
「皆さんから声をかけられてるのに?エースが戻ってくるの、ちゃんとここで待ってるよ」

ちら、と横目で私を見る。
何故か頭を撫でられた。

「用があるならそっちから来ればいいだろ?」
「ちょっ、エース…!!」

あれだな!?威圧しているな…?
そっちから来ればいいと言いつつ、来れないような空気を放っているな!?心配し過ぎだよ…。
苦笑していると、ビスタさんがやって来た。
その手に花を抱えて。

「リオ、体調が戻って何よりだ。これを」
「ありがとうございます!わぁ、綺麗!」
「味気のないエースの部屋に飾ってほしい。
リオという華があれば、良さそうだけどな」
「お、お上手ですね…!ふふ、嬉しいです」

オレンジ色で構成された花束。
元気が出る色合い、控えめに香る花の匂い。
頬が緩んだ。

「さすがビスタ」
「お褒めに預かり光栄さ。…エースも、ようやく眠れたようで安心したぞ。無茶はお互い様だな」
「うぐ、それは言わないでくれ…。マルコにも
耳にタコが出来るくらい怒られたんだ…」
「ははは!知っているとも。また二人が並んでる姿を見られて、おれたちは心から嬉しいよ」
「…ありがとな」
「ありがとうございます」

おれたちの弟妹は本当に無茶をする。
全く、目が離せないよ。
そう言ってエースと私の頭をひと撫ですると、
ビスタさんは親父さまの元へと向かった。
思わずエースと顔を見合わせて笑う。

「心配性な奴しかいねェな」
「でも、嬉しいね」
「…あぁ」

そういえば。と、エースが手を打つ。

「明日には次の島に着くみたいだ。船の補給も兼ねてるから、今回は少し長めに停まるっつってた。一緒にのんびり散歩しに行かねぇか?」
「うん、行きたい!」

楽しみだな!笑って手を握るエース。
指を絡めると抱きしめられた。
そんな私たちを冷やかしながら、二番隊の皆さんがやって来て一緒に飲もうぜ!と誘ってくださった。私もご一緒していいか尋ねれば、ニッと笑って「当たり前だろ、姐さん!」と。

姐さん。

聞き慣れない言葉に戸惑っていたら、
エース隊長の嫁さんってことはつまり、おれたちにとっちゃ姐さんだろ?間違ってないと思う!
謎の理屈…!任侠の世界じゃあるまいし!!
普通に名前で呼んでくださいとお願いした。
……なに笑ってんの、エース!

「カッコイイじゃねぇか、姐さん」
「…面白がってるでしょ」
「ちょっとな」

手を繋いだまま、楽しそうに盛り上がっている皆さんの輪へ入って行く。たくさんの笑顔に囲まれて、とても幸せな気持ちになった。

船の喧騒は夜の海に光をもたらしている。
花束を抱えて、その光景を目に焼き付けた。

prev : next


  Back  Top