32

様々な花が街中、所狭しと咲き誇る。
補給のために立ち寄った島は、穏やかな春島。
モビーは寄港するには大きすぎるので、沖合に停めて何隻かの小舟で島へとやって来た。
もちろん、私とエースもその中にいる。
ストライカーでの移動は非常に目立つのでマルコさんに即却下されていた。その通りだったから、フォローは出来ない。ごめん、エース。

島に着き、街中を歩く。
補給班や偵察班、私たちのような散策組。
各々の目的で島を巡る。

私とエースはたくさんのお店が並ぶ市場へ来ていた。色とりどりのアクセサリーや、美味しそうな食べ物。珍しいものが多くて目が足りない。

「人も多いし、なんだかお祭りみたい!」
「ああ、春島はどこも人が多いイメージだな。お!ほら、リオ!あっちの空を見てみろ!」

指を差す方を見上げれば、カラフルな小鳥達が斜めに編隊を組んでピィピィ鳴きながら飛んでいた。それはまるで空にかかる虹のようで。
小鳥達を眺めてから、また歩き出す。

歩き出してすぐ、可愛い雰囲気のアクセサリー屋さんが目に入った。綺麗なピアスや細めのものから太めのものまで揃ったネックレス、形が様々なブレスレット。思わず足を止める。

「どうした?気になるもんでも見つけたか?」
「うん。このオレンジ色のブレスレットが可愛いな、って。ほら、赤い石も付いてるよ!なんだかエースみたいで…っ、いや!なんでもない!」
「おれみたいで?なに?」
「くぅぅぅ、思ったことが口に出てしまう!」
「ははは!可愛い奴だなァ!それ買うか?」
「嫌じゃなければ、お揃いにしたい…な」

そう言えば、お店の人が
「ひゅー!旦那、愛されてるねェ!」
と囃し立ててくる。わかってる!わかってるよ!!自分でも恥ずかしいこと言ってるって!
お揃いの物を身につけたくなったんだもん…!

頭をぽんぽん撫でられて、同じ物を二つ購入。
手に乗せてみる。可愛いし、かっこいい。
…うん、やっぱりエースみたいだ。

「お嬢さん、こちらの小さなパーツもブレスレットに付けることが出来ますよ!」

お店の人がお勧めしてくれた、ハートや星、アルファベットなど金色に彩られた小さなパーツ。
よし、付けよう。
エースには何がいいかな、…ドクロ?

「ドクロとかまんまだからやめろよ?」
「エスパーかな?よし!スペードにする!」
「…スペード」
「うん、スペードのエース!ふふ、安易かな」
「いいや。それにしよう」
「私はー、」
「これだろ」

クジラの、パーツ。

「可愛い!ちっちゃいモビーだ!」
「…はー、なぁ店主、おれの恋人可愛いだろ?」
「ええ、なんとも!可愛らしいですねェ」
「は、なに?なんで!?」

二人してほんわかな空気出してるのはなんで?
パーツまで付けてもらい、左手首につけた。
エースは右手首に。邪魔になったら取ってね!と言ったらデコピンされた。地味に痛い。

それから、ゆっくり街中を歩いて。
島の先端には大きな灯台があるようで、そこへ向かおうとした。街と森を抜け、川と橋を渡り。
拓けた草原に出た。そこで、既視感を覚える。
そう、私がこちらの世界へ来た時にいた島。
カキツバタ島によく似ている気がして。
同じ春島だからかな?と、無理やり納得する。

奇しくも、今はその時と同じような格好だ。
春島の秋と聞いたので、コートを羽織り、マフラーはカバンに忍ばせて。カバンの中身もほぼ一緒で。…なんとなく、足を止める。

「リオ?」
「エース、今日は引き返したい、な」
「ん、疲れたか?」
「ううん。んー、エースに隠し事はよくないよね。あのね、ここ、私がこちらへ来た時の島の雰囲気に似てるの。このまま進んだら、もしかして…って思っちゃって。ふふ、そんなことな…」

そんなことないよね。
紡ごうとした言葉はエースの腕によって遮られた。ギュッ…!と抱きしめてくるエース。

「…帰さねぇよ」
「エース、」
「帰さねぇ。…リオは帰りたい、か?」

肯定も、否定も、出来ない。
しいて言うならば。
エースと離れるのは…寂しい。

それに!
マルコさんとの書類整理も終わっていないし、今週分の計算もやらなきゃ。二徹してるって聞いたから、マルコさんが心配だ。倒れちゃう!
サッチさんや四番隊の皆さんの手料理もまだまだ食べたい。モビーの探検も済んでない。
イゾウさんとだってまだお酒を飲めてないし、
ティーチさんとこの間の能力者について話もしたい。ビスタさんにお花のことを聞きたい。
ナースのお姉様たちともっとお喋りしたい。
そして、親父さまに。何か…何かを返したい。

「モビーは、あの大きな船で家は。乗っているみんなが暖かくて優しくて、居心地が良くて…大好き。それに大好きなエースもいるし、ずっと居たいなぁ。居れたらいいな、って思うよ」

でも、私の世界にも。
私の生活があって。友人がいて。クソ上司がいて。中途半端に投げ出したくないとも、思う。

「…また、ここへ来てもいい?」
「おれと一緒って条件なら、…いいよ」
「わぁ、嫌そうな顔!」
「嫌に決まってんだろ!リオが戻っちまうかもしれねぇんだぞ!?今すぐにでもこの島から離れてェよ。そしてもう二度と来ねぇ」
「ふふふ!想いが重ーい!」
「うるせぇ!その通りだよ!何笑ってんだ!
…はぁ、リオ。飯食いに行こう。腹減った」
「うん!お魚食べたいな!」
「毎日でも食えるだろ?」
「毎日お肉食べてるエースに言われたくない!」

顔を見合わせて、笑う。
…大丈夫、大丈夫だよ。もう少しだけ。


***


モビーへ戻り、エースは二番隊の皆さんの元へ。私はというと。マルコさんの部屋へ直行した。

「マルコさん、ちょっといいですか?」
「おう、帰ってきたのか。どうした」
「文字の書き方?を教えてください!」
「文字?別に書けなくても…」
「…マルコさん、ここに重要書類があります」
「!?人質ってヤツかぃ…。姑息な真似を…!」
「……」
「……」

間。

「ふ、あはははは!はー!まさかマルコさんがノッてくれるとは思いませんでした!むふふ、」
「お前さんも知ってると思うがおれァ暇じゃねぇ!デコピン喰らったその上にデコピンすんぞ」
「ごめんなさい」
「おう。で、なんでまた急に文字を?」

本気でデコピンしようとする目だったな。
忙しい時の人間は取り扱い注意ですよ。
文字を覚えたい理由。それは。
…手紙を、残したいと思ったから。

「手紙…?」
「はい。多分ですけど、私この島で元の世界に
帰ってしまうと思うんです」
「…は??」
「確証はありません。…けど、なんとなく。そんな気がするんです。何も残したくない気持ちと、何かを残したい気持ちがせめぎ合ってて。…それに、エースが少し心配…だな、と」
「…最後のが、本音だな」
「はい…」

私が三日間目を覚まさなかった時。
エースも三日間眠れなかった。
それは、良いことではない。この船にとって。
エースにとっても。

「わかった。基本から教える」
「ありがとうございます!」
「…親父にも一言、言っとけよい」
「はい。この後、伺おうと思います。…お忙しいとは思いますが…、着いてきて頂けたら…」
「もちろんだ」

即答してくれるとは。
本当に忙しいだろうに。
気合いを入れてスペルや単語を覚えねば。


─…ある程度、文字を書けるようになった頃。
親父さまの元へ向かった。
たくさんの感謝と、謝罪と、私の想いを。


***


「エース!おかえりなさい!」
「おう、ただいま。どうした?何笑ってんだ」
「帰ってきて嬉しいなーって!」
「帰ってくるのは当然だろ、おれの部屋だし」
「おれの部屋、だし?」
「リオが、待ってる部屋だ」
「えへへ、エース好き!だーい好き!」
「…まさか酔ってる?」
「失敬な。素面だよ!」
「へぇ、…じゃあ夜のお誘いか?」
「…うん」
「は?うん?」

今日はエースが好きなだけ、抱いてほしいな。

そう言えば、目を見開いて瞳が揺れた。
昼間のことを思い出してるんだと…思う。

「…今夜は優しく、できねェかも」
「いいよ、どんなエースもエースでしょ?」
「おれの恋人は、ひでぇなぁ…」
「ひどい?」
「心に大きな傷を。残していくつもりだ…」
「…大丈夫だよ、世界は、海は広いから!」
「リオは一人しかいねぇだろ…?」
「…うん。エースも、一人しかいない、ね」

帽子を脱いで装備している武器、アクセサリー類を取り外し、私の元へ。街で買った、お揃いのブレスレット。それは外されずに着けたまま。

両手を広げれば、抱きしめてくれる。
エースは変わらずぽかぽか暖かい。
あたたかくて、気持ちよくて。

「なぁ、リオ?変なこと聞いてもいいか」
「変なこと…?」
「おれが世界的大罪人の子だったらどう思う?」
「どう…?親が大罪人であったとしても、子どもはそうじゃない。同じ血が流れてるけど、同じ人間ではないよ。エースはエース。私はエースが生きててくれて嬉しいし、その親がいなかったら、そもそもエースはいないわけだよね」
「はは、リオはそう言うと思った」
「なになに、なんの確認?えっと!要するに!
私はエースが好きなので、そんなものは知ったこっちゃないです!生きてるだけで嬉しいよ!」

どこぞの肯定ペンギンかな?
意図が分からないから答えになってるか不安。
エースを見れば、肩を震わせて笑っている。

「…エース?」
「おれはリオに会えてよかった…そう、つくづく思ってな。リオを愛してる!ってのも」
「愛っ…あ、ありがとう…」
「おれの嫁になってほしいよ」
「……ええと?プロポーズ、かな?」
「!!…そうなる、のか?」
「もう一回チャンスをあげよう!」

ぱちんと両手を叩いてから、そそくさとベッドの上へ。きちんと正座してエースを待つ。

あー、とか。うー、とか。
後ろの髪を掻きつつ、悩んでいる。
私よりエースの方が何倍も可愛いと思う。

よし!と気合いを入れる声を上げて、ベッドへ
来るとエースは真剣な表情で私の前に正座した。

「出会った時から。いや、電伝虫で話をしている時から。そして、これからもずっと。おれはリオを愛します。リオ、おれの家族になってください」

言い終えると同時に勢いよく頭を下げる。
もう一回、と言ったのは私なのに。
エースの言葉に胸が詰まった。
目に涙が溜まって瞬きをすれば、落ちていく。

「私で、いいのなら。喜んで…っ」
「リオがいいんだよ。へへ、緊張した!」
「言わせたのは私なのに、泣いてしまうー!」
「ははは!泣くな泣くな!」
「うわ"ーん!!!エースと、離れたくない…!エース…の、本当の家族になりたい…!」

帰らなければ。
─帰りたくない。

私には、私の世界がある。
─もう会えないかもしれない。

彼はこの世界の、人だから。
─私は違う世界の、人間、だから。

「きっとまた、会えるさ」
「…会えるかな、また…」
「もちろんだ。必ず迎えに行く」

ニッと笑うエース。
私が大好きな、明るく眩しい笑顔。
…手紙がなくても、大丈夫だったかもしれない。
強く強く、抱きしめてくれた。

エースの部屋で過ごす、最後の夜。
私も、エースのことをずっと…ずっと。
愛してる。あなたを、想い続けるよ。

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