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いずれ読みたいと思っていた漫画。
巻数は今や90を超える。
この物語に、エースが登場するのか。
ソファーに座り覚悟を決めて一巻を手にした。

主人公のルフィ。
彼は“悪魔の実”を食べてしまい、ゴム人間に。
ルフィの大恩人となった赤髪のシャンクス。
最初の仲間、海賊狩りのゾロ。
ナミ、バギー、ウソップ、クロ一味、サンジ、ミホークにクリーク。魚人のアーロン一味。
キャラクターがどんどん出てきて。
味方が増えるたび、敵も強くなっていく。
サンジとナミの過去は、胸が痛んだ。
ルフィの力強い言葉に、胸を打たれた。

海賊王が処刑された町。ローグタウン。
そして、グランドラインへ。

「…グランドライン…」

ふっと顔を上げると、空が白み始めていた。
椿はベッドですぅすぅ眠っている。
まだ、眠気はこない。

バロックワークス、一国の王女様であるビビ。
リトルガーデン、ドラム王国。
チョッパーの過去も…なかなかに壮絶だった。
見た目はとてもキュートなのに。
そして、──アラバスタ。

表紙を持つ手が震えた。
…エース。
確かに、エースだ。私が知る、エース。

『…弟をね。探してんだ』
『おめェらもこいつにゃ手ェ焼くだろうが、
よろしく頼むよ…』

ルフィが、エースの弟!?まさかの兄弟!
でもルフィはモンキー・D・ルフィ。
エースの姓は、ポートガス。
んんん??どういうこと…?

バロックワークスとの死闘、クロコダイルとの決着。ビビとの別れ。ミス・オールサンデー…こと、ロビンが加入して。一路空島へ。
ジャヤのモックタウン。
そこに現れた、ティーチさん。
…ん?ティーチ…さん、だよね?
そして、シャンクスと白ひげの親父さま。やはり、呼吸器の管を付けている。ナースのお姉様たちもいた。紙面でもお美しさは変わらない。

とんでもない方法で、空島に着いて。
エネルと戦い、鐘を鳴らす。
降りた先はロングリングロングランド島。
そこでのデービーバックファイト。
…青キジの、お兄さん。
本当に、海軍の大将だったんだ。

ウォーターセブン、CP9。
ロビンの過去。青雉のお兄さんの、想い。
メリー号との別れ。
エースと、ティーチさんの…決闘…。

46巻の途中で、手が止まった。
ティーチさんの攻撃に膝をつくエース。
サッチさんは、ティーチさんに…殺された?
あの、サッチさんが…?頭が混乱してくる。
それと同時に、私が海へ道連れにした能力者の夢を思い出す。エースが、捕まっている夢。

「赤崎…?まさか、ずっと読んでるの?」
「…うん、眠れなくて。おはよう」
「おはよう。…どこまでいった?」
「エースと、ティーチさんが戦ってる所…」

そっか。
一言呟いて視線を落とす。
ソファーから立ち上がって、椿の隣へ。
布団に入らせてもらうと、頭を撫でられた。

時間はあるから、ゆっくり読みなよ。
椿の優しい手の平に安心して、瞼を閉じる。
エース。
無事なのかな。無理してないといいな。
睡眠も体調も…大丈夫かな。心から、心配だ。

ねぇ、…エース。


***


目を覚ますと、隣に椿はいなかった。
キッチンから音がする。
いい匂い。ぐぅぅぅ、お腹が空腹を知らせた。
ふらりと立ち上がり、リビングへ。

「おっ、起きたね!もう夜の8時ですよ〜」
「は!?本当だ。真っ暗じゃん!」
「まぁまぁ。ほら、ご飯食べよう!」
「わー!サッチさんの炒飯思い出すなぁ」
「いいね、そういう話、すっごく聞きたいわ。
あのリーゼントって、地毛なの?偽物?」
「地毛みたいだよ。触らせてくれなかったけど」
「なにそれウケる。そもそも、どの時期に飛んだの?サッチがいるってことは、ティーチもいたんでしょ?やばくない?」
「…ティーチさんも、いい人…だった。悪魔の実のこととか、教えてくれてさ。そのお陰で海賊に襲われた時、対処出来たんだよ」
「海賊に襲われた!?」
「うん、漫画では見ない人だったけど」
「はぁー、大冒険してきたんだねぇ…」

もう、遠い昔のように感じる。
まだ1日しか経っていないのに。

ご飯を食べ終えて、シャワーを借りる。
その後、アイスを食べながら向こうの話を椿に聞かせた。良い反応をくれる椿に救われている。

深呼吸して、続きを読み進めた。
ブルックとの出会い。
スリラーバーク。また現れた七武海の一角。
さらに、脅威で謎の存在である…クマ。
シャボンディ諸島へ着けば、“最悪の世代”と呼ばれるルーキー達が続々と現れて。

大将・黄猿がルフィ達を襲い。
クマにより麦わらの一味は散り散りに。
ルフィは女ヶ島へ。エースの処刑が…決まって。
処刑。…まさか。
舞台はインペルダウンへ。
今まで戦ってきた敵が味方に。巻き込んでいく。

56巻。

手から、滑り落ちた。
あの…夢で見た光景が蘇る。
夢じゃ、なかったの?
あれは…能力者が見せた、夢、でしょう?

私の様子に、椿が近寄って単行本を拾い上げて…息を、飲んだ。もう、それだけで。
椿のリアクションひとつで。
この戦いの結末が。想像出来てしまった。

「…いやだ、」
「赤崎。ちゃんと最後まで読んで」
「椿、エースは…!死んじゃうの…?」
「…自分の目で確かめて。彼を思うなら。その先を。私にはそれしか言えない。ごめん」

涙をタオルで拭き取る。
…そうだ、私は覚悟を決めて読み始めた。
最後まで。この物語を読むんだ。

激戦に次ぐ激戦。
ルフィとMr.3によって解放されたエース。
…よかった。
エースにとっても。ルフィにとっても。
兄弟の絆が、ルフィの想いが。報われた。

しかし、ルフィに迫る…マグマの拳。
もう避ける力が出ないほど消耗している。
それを咄嗟に庇うのは…

…エース…。

「愛してくれて…ありがとう」

地面へ倒れる、エース。
その表情は口元に笑みを浮かべるほど、とても穏やかで。悔いは、ないと。俺は生きたと。

“おれが世界的大罪人の子だったらどう思う”

あの時。
私に聞いてきたこと。
海賊王ゴールド・ロジャーの息子だから。
鬼の血を引く、子どもだから。
自分が生まれた意味を、疑問に思っていたから。

『…ゴールド・ロジャーは、どうだ』
「いえ、存じ上げません」
『知らねェ…のか?』
「はい」

ははっ!ざまァねぇな!

…そうだ。電話でも、尋ねられていた。
この海賊の名を知っているか?と。
私が知らないからこそ、きっと、エースは。

震える手で、ページをめくる。
親父さまはティーチさん達の手で…命を落とす。
頭が痛い。涙で前が歪む。
頂上戦争はシャンクスの介入により終結した。
ルフィはジンベエと共にローに助けられ。
目が覚めて、慟哭するルフィ。
あらゆる手を使ってようやく助けたと思ったら。自分の目の前で、兄を失ったんだ。
その怒りや悲しみ、喪失感は想像を絶する。

ルフィとエース、そして、サボ。
三人の幼少期の話へ移る。
何故二人…いや、三人が義兄弟になったのか。
その経緯もわかった。
そう、だったんだ。エースとルフィは、サボを…。大切な、兄弟を…失っていたんだ…。

親父さまとエースの、お墓。
それを見る、マルコさんたち。
彼らの悲しみも、どれほど深いものになったか。
…ティーチさんを、許せないと思う。
私は聖人じゃないから。
彼の過去に何があったのか、まだ、わからない。けれど。サッチさん、エース、親父さま。
みんなの命を散らせた原因は、確かに彼だ。
彼にも事情があったはず……なんて、そう簡単に割り切ることは出来ない。本当に、許せない。

ルフィは兄を思い、そして、仲間を想う。
強くなるためにレイリーと修行を始める。
2年の歳月が流れ、麦わらの一味はシャボンディ諸島へ再び集まった。離れていたけれど、一味の絆は更に強くなっているようで、安心する。

魚人島、パンクハザード、ドレスローザ。
新世界へ入ってもなお、戦い続ける彼ら。
メラメラの実を巡るコロシアムの決闘で、現れた青年。ルフィが驚愕し、泣くほど。飛びついて、抱きしめて。彼の存在が、ルフィを救う。
そしてそれはまるで、必然であるかのように。
彼らの兄弟である…サボが。
メラメラの実を口にした。
エースの炎は、サボへと受け継がれる。

「そっか、…エースは亡くなったんだね」
「…うん」
「同じ実は、ひとつしか存在しないんだもんね」
「そうだね…」

ゾウ、ホールケーキアイランド。
そして、ワノ国。最新刊まで読み終えた。
外は明るくて、いつの間にか朝を迎えている。
朝…というか、もうお昼だ。

「赤崎、」
「ありがとう、椿。読ませてくれて。エースのことを知れてよかった。何があったのか、知ることが出来てよかった。エースの炎は、まだ消えてないんだって……わかっ、た、から」

笑おうとしたけど。
…さすがに、もう。無理だった。
涙が止めどなく溢れる。これが、俗に言う涙腺崩壊というやつかな。止め方がわからない。

椿も、瞳を潤ませていた。
たくさん泣いて、そのままベッドで寝て!!
そう言って寝室に押しやられる。

タオルで顔を覆い、泣きながらベッドへ横になる。目を閉じても開けていても、思い出すのは
…エースの眩しい笑顔。

私が会ったエースは、本物だったのかな。
都合のいい夢…だったのかもしれない。
そんなことを、考えてしまう。
手首に着けたブレスレット。小さいクジラ。
…首筋の、エースが愛してくれた証。

夢じゃない、絶対に夢じゃ…ない。
私はエースと出会った。恋をした。
彼を心から…愛している。


It was a very beautiful dream.

それは、幸せな夢だった。
そう思えるほど彼の未来は、残酷で。

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