休み明けの職場。
菓子折を持って出勤した。
上司に「突然休んですみませんでした、対応してくださりありがとうごさいます。」と頭を下げれば、なんと体調を心配された。どうしたの。
心配してくるなんて…この人本当にクソ上司?
自分のデスクに向かうと、同じ部署の皆さんが集まってきて声をかけてくれる。こちらにも同じように謝罪とお礼を言えば、何より職場へ帰ってきたことを喜んでくれた。
休んでる間に、一体何があったというのか。
午前中の仕事は休んでいた時の残務処理。
そこまで量はないからのんびり終わらせて。
椿から『お昼、一緒に行こう』と誘われた。
「よ、赤崎!元気にしてた?」
「色々ありがとうね、椿。元気…ではないけど、日常に戻れるくらいには…大丈夫かな」
「…彼の姿を探しちゃう、でしょ?」
「わかる?」
「すごくよくわかる」
似たような背格好の人に目が行く。
違うと分かっているけど、目は追ってしまう。
うんうん、と頷く椿。
今日は椿の彼氏のことを教えてくれるらしい。
…そういえば、いつも自分のことでいっぱいいっぱいだったから、椿の彼氏のことを詳しく聞いたことがなかった。遠距離恋愛してる、としか。
いや本当に今さらで申し訳ない…。
が、とても気になる。
スープが美味しい某店へ。
カウンターに隣り合わせで座った。
「赤崎、漫画は既刊全部を読んだよね」
「うん。確かワノ国の途中まで!」
「よし、最新まで読んでるね」
「……彼氏の話でしょ?」
「そうだよ?」
「…?」
「ははは!疑問しかないよね!正直私もどこから話せばいいのか…。えーと…そうだな。よし、
まずは特徴を挙げていくよ?」
「特徴…??」
笑って彼氏の特徴を挙げる。
身長は191cm。
白いモコモコの帽子をかぶってて。
出身は北の海。
潜水艇のキャプテンをしている。
黒髪で短髪、人相はちょっと悪め。
一時期だけど、七武海にいた。
七武海。
こちらの世界でそんな制度はない。
そして挙げられた特徴で思い浮かんだ人物。
「え!?椿の彼氏って…」
「わかった?」
私の好きな人も、あっちの人。
死の外科医、トラファルガー・ロー。
「ええぇぇぇええ!!?!」
「あははは!ナイスリアクション!遠いところにいるって言ったじゃん。ね、遠いでしょ?」
「遠いってレベルじゃ!ない!!」
彼との出会いや、何があったのか。
お昼の時間だけでは話尽くせないから、詳しくはまた後日ね!と約束してくれた。気になる。
気になり過ぎる…!!
初登場時のイメージと、現段階の彼のイメージは大きく異なる。きっと椿から見た彼の話を聞いたらまたイメージが変わることだろう。
「ん?でも以前、連絡は取り合ってる…って」
「ああ、私電伝虫を持ってるんだ」
「は?」
「あの人心配性でね、持たされたの」
「と、いうことは…あっちに行ったの?」
「うん。ほら、白い花のキーホルダー。私の願い事は“ローに会いたい”だったんだ。それが叶った時に…ね。持っていけって手渡されてさ」
「繋がる、の?」
「ふふふ!なんと繋がるんだなー!不思議現象だよね。こっちの機器じゃ繋がらないのに。この子はあっちに繋げてくれる。持たせた本人が出ることは稀だけど。ああ見えて、照れ屋だから!」
ローさんを思い浮かべているのだろう、
椿の笑顔がとても可愛い。恋は人を綺麗にしますね!椿が笑ってるとなんだか私まで嬉しい。
「…また会いたいって、思わないの?」
「そう、だなぁ。やっぱり恋しいよ。泣いた夜は数え切れないし。会えるなら会いたい…けど。
…ローがね、言ったんだ」
“俺はお前を諦めない”
「その言葉が、胸にストンと落ちてさ。ああ、大丈夫だ。また会える。そう思えたんだよね」
「かっこいい!」
「ねぇ、サラッと言えるのすごいよね」
「エースもそういうとこあったな…」
「あっちの男性は驚くほど真っ直ぐだよね…」
「うん、眩しいくらいに真っ直ぐだね」
彼らは自分の言葉に自信を持っている。
だから眩しく思えるのだろう。
赤崎は?と尋ねられた。
…私は。
『絶対に、死なないで!!私がエースを幸せにするから!待ってて、エース!!!』
「…赤崎が、言ったんだよね?」
「う、うん」
「そっか」
何度か頷いて。
椿に両手を取られた。
「赤崎、その白い花のキーホルダー。あんたが持ってなよ。きっと…必要になる。私は自分より、赤崎の願いが叶って欲しい!」
「椿…?」
「あんたがエースの未来を変えるんだよ。彼を死なせないで。二人で、幸せになって!!」
「でも、もう、花はひとつしか…」
「そう。だから願う時は覚悟を決めて。こちらの世界で彼を想い続けるか。あちらの世界で彼を救って、二人で幸せになるか。…はは、すごいね、あんたの人生で究極の二択になるよ!」
「椿と離れるのも…嫌だよ…」
「おいおい、私には電伝虫があるのをお忘れでは?ローを捕まえて、連絡ちょうだい!…こういうこと言うのは私のキャラ的にアレだけど。あんたと私はどこに居たって友達じゃん?」
「はわわ!私たち、ズッ友…!!」
「絶対それ言うと思ったわ」
顔を見合わせて笑う。
お喋りしながらご飯を食べ終え、会社へ戻る。
その間に元彼と偶然出会ってしまった時のやり取りを話せば、夜の一人歩きはやめなよ、と釘を刺された。その真剣な声色に青雉さんを思い出して笑ってしまう。笑いごとか!!と怒られたけど、どうしても重なってしまった。
“ちゃんと自分で気をつけるんだよ。”
はい。ちゃんと、気をつけます!
***
…気をつけると言ったな!!
あれは、心から本当に本当だけど!
致し方ない理由がある場合はどうすれば…!?
仕事を終え定時退勤して、アニメを見たくてレンタル店へ寄った。見たいのは初登場シーン。
アラバスタの所だ。
そしてティーチさんとの戦いと頂上戦争…。
ツラくても見ておかなければ、と思う。
エースの足跡を追う…感じかな。
…そうやって何巻借りようか迷っていたら!
あっという間に時間が過ぎていて22時前!!
真剣に悩みすぎたし、ちょっと借りすぎた?とも思ってる!!…睡眠削るしかないな?
「よぅ、莉央」
最寄り駅を降りた先に。
先日会ってしまった、元彼がいた。
…なんで、この駅を知っているんだ。
背筋が凍る。鳥肌も立つ。
はっきり言おう。気持ち悪い。
駅前だから人通りが多いのが幸い、だ。
交番の場所も把握してる。スマホも手に持つ。
「…なんの用、ですか」
「会いに来た!」
「そうですか、ではさようなら」
「待てって!飯食いに行かねぇ?」
「行きません。明日も仕事なので帰ります」
「ツレないこと言うなって!」
ぐ、と腕を引かれる。
それを勢い良く振り払う。
私がそんな行動を取ると思っていなかったのか、ニヤニヤとした顔が驚きへと変わった。
不用意に、触らないでほしい。
「俺に告白してきたのは莉央だっただろ?」
「そうですね。ですが別れを告げたのはあなたです。私はもう、あなたを想っていません。こういう待ち伏せは迷惑なのでやめてください」
「ふぅん?俺はまだ好きだよ?」
…こんなに話を聞かない人だったかな。
少しずつ、恐怖を感じ始める。
これ以上この人と話すのは嫌だ。
意を決しスマホをタップすると声をあげた。
「もしもし。ごめん、人に捕まっちゃって。今?駅だよ。ご飯は?先に食べてよかったのに。ふふふ、優しいね。ありがとう。もう少し待ってて」
エースを思い浮かべて電話で会話をするフリ。
…とっても虚しい。
でも、エースの存在は私を守ってくれてるとも思う。本当にもう、エースが大好きだ…!
「彼が心配してるので。失礼します」
元彼に背を向けて歩き出す。
何か言っていたけれど、無視した。
もちろん、家とは逆方向に向かって。
タクシーを拾おう。つけられてはたまらない。
出費は痛いが、背に腹はかえられないよ!
なんとか無事に自宅へ着いたが。
疲労感がすごい。
なんで最寄り駅を知られてるんだ…!
絶望感もやばい。
当分はひとつ前の駅とひとつ先の駅を利用しよう。とにかくもう、二度と!会いたくない!
すぐにお風呂へ入り、ベッドに沈む。
アニメ…見ようと思ってたのに。
気力をごっそり削がれてしまった。
ため息をついて目を閉じる。
元彼に会ったことが相当精神的にきたのか、
そのまま眠ってしまった。
『リオ、愛してる』
エースの声が…聞こえた気がした。
エース、ありがとう。
あなたがいるから、私は頑張れる。