「夢で見た部屋と同じだ」
家に入るなり、そう言ったエース。
どういうことか尋ねると、以前私を襲い、海へ道連れにしたあの能力者の力で私の夢を見た…と。
そこで私は寝ながら泣いていた、とも。
思い当たる節がありすぎる。
…というか、エースは何をしてるの。
あの能力者の力を自分から受けに行ったってことだよね?いくらエースでも危険すぎる。
マルコさんでも止めきれなかったのかな…。
「狭い部屋だけど、どうぞ」
「お邪魔します!」
「わぁ、礼儀正しい!」
「…ただいま。も、言っていいか?」
「!もちろん。おかえり、エース」
「ただいま!リオ!!」
なんだこの可愛い生き物は?
この人、私の恋人なんですよ。可愛い…。
ふふ、と笑えばつられて破顔する。
あー!可愛い。カッコいいのに可愛い!
…エースに萌えてる場合じゃなかった。
何から話そう。上着を脱ぎ、マフラーも取る。
短くなってしまった、お気に入りのマフラー。
焼け焦げた跡を見るとなんだか切ない。
「マフラー、焼いちまってごめん…」
「ううん、大丈夫だよ。気にしないで!」
「…ありがとな。怪我はしてないか?」
「少し腕と膝が痛い気がする…。転んだ時に擦りむいたのかも。怪我ってほどじゃないし、大丈夫!」
「それは大丈夫じゃねぇよ」
「…だよね。先にお風呂行ってきていい?」
「一緒に入りたい」
「入りません」
ぐっ!と眉間に皺を寄せるエース。
そんな顔してもダメです!
怪我を心配してくれるのは嬉しいけど、さすがにお風呂へ一緒に入るのは恥ずかしいよ!!
「えっちなことしないから」
「本当に?」
「……」
「はい、ダウトー」
「そりゃあ…ちょっとは触るかもしれねェけど。
我慢する!って約束…、…約束はできねぇな…」
どうやら下心があったらしい。
すぐ上がるから、大人しく待ってて!とソファーへ座らせた。…居心地悪そうだなぁ。
リモコンを取りテレビをつける。
突然映し出された音と映像に、肩を跳ね上げさせて驚いたエース。どうなってんだ?中に人がいるぞ!?と、液晶画面に近づいていく。
数字を押せば番組が色々変わることを教えたら、目をキラキラさせてリモコンを握りしめた。
まるで新しい玩具を与えられた少年のよう。
その隙に、と、私はお風呂へ。
服を脱いで痛む箇所を見れば肘も膝も擦り傷だけだった。血が出ていなくてホッとする。
他に痛い所は頭部。なんでだっけ?と思ったけれど、思いきり髪を掴まれたのを思い出す。
…元彼め。
湯船には浸からず、髪や体を洗い終えるとすぐに出た。少しはサッパリしたかな。
扉を開けてバスタオルを取る。髪と顔を拭いたら一度タオルを広げた。次は体を、と思ったが視線を感じて顔を上げれば目の前にエースがいる。
咄嗟に体を隠してしまったのは…条件反射、だ。
「うわっ!?び、っくりした…」
「どうしても怪我が気になってさ」
「心配性だねぇ。大丈夫だったよ、ありがとう。
…いや、ちょっとエース!入ってこないで!?」
あまり近づくと濡れちゃうよ。
そう声をかける間もなく、首に触れる。
撫でるように触られて心臓が跳ねた。
「キスマーク消えてるな。首筋に噛みつきてェ…」
「っ、だ…ダメです!着替えたらエースの隣へ行くから、もう少し向こうで待っててほしい…!」
別の意味で身の危険を感じたので、背中を押してエースを脱衣所から追いやった。危ない。
こら、舌打ちするんじゃない!聞こえてるよ!
全て拭き終え、髪もしっかり乾かして。
エースの元へ向かえば天気予報を見ていた。
明日の天気がわかるって…こいつ何の能力者?
真剣な表情で聞いてくるエースに思わず笑う。
どっちかと言えば能力者より、預言者かな。
隣に座って一緒に画面を見つめる。
なんだか、不思議な感じ。
「一緒に住んでるみたい」
「同棲ってやつだな!」
「そうそう。ふふ、照れちゃうなぁ」
「…リオ、」
呼ばれて振り向けば、ちゅ、とキスされた。
軽く触れるだけの口付け。
…それだけじゃ足りないよ。もっとちょうだい?
思わず口に出そうになる。私、落ち着いてくれ。
まずは話をしなければ。
テレビの電源を押して画面を消す。
こちらへ来た経緯。それは先ほど知った。
白い花畑からこちらへ来てしまった。
私があちらへ行った時と同じ状況、かな?
ということは、エースが向こうへ帰ってもあちらの時間はそれほど過ぎてはいないだろう。
もしあちらへ帰ってしまうとしたら。
それはいつなのか。
私は同じような環境で、同じような風を受けて。
こちらへ戻ってきた。
エースも、そうなると思う。白い花畑、か…。
「ねぇエース、この本の文字を読める?」
「ん?いや…読めねェ」
「テレビから聞こえてきた言葉はわかった?」
「それはわかったぞ!…はぁ?なんだこれ、わけ分かんねぇな。リオも、こんな感じだったのか?」
「そうだね…、軽いパニックを起こしたよ」
「おれはもうリオに会えてるから、何も心配してねぇけど…。リオは一人で何日か過ごしてたんだろ?本当、スゲェよ。リオ、海賊に向いてるな!!」
「いやいやいや!向いてはいないよ!?適応能力があった…って言ってくれるかな!?」
笑うエースの頬を両手でむぎゅ、と包む。
にゃにすんだよぉ、と声を上げているが嫌がる素振りはないのでそのまま頬をムニムニ触り続けた。
憶測でしかないけど、急にいなくなったりはしなさそう。そうなると、こちらで過ごすにあたって必要なもの。知識…は、私がいるから大丈夫なはず。
そうだ、服!!上半身裸はまずい。
いくら鍛え上げた体であっても、服を着ていなければ、こちらではただの露出狂。普通に捕まる。
そして、悪魔の実の能力。
「エース、こっちの世界でメラメラの能力を使わないでね?ここには悪魔の実が存在しないの。エースみたいに体の一部が炎になったり、マルコさんのように鳥になったり、そういう特殊な能力を持った人はいないから。約束…してくれる?」
首を縦に動かし、了承してくれた。
エースは能力がなくたって強いもんね。
元彼がぶっ飛んで行ったのは…すごかったなぁ。
腰に着けた短剣も持ち歩くのはやめてもらって。
あとは…。うーん、なんだろう?
思いのほか、あまり浮かばない。
そうだ、椿!椿に助言をもらおう!
早速連絡しようと頬から手を離す。
…離したけれど。
今度はエースが私の手を取って、するりと指を絡めてきた。左手が後頭部にまわり、ゆっくり体重をかけられて、背中からソファーへ沈む。
そのまま、覆い被さるように抱きしめられた。
「…リオ、今のうちに言っておくな」
「うん?」
「おれはリオを向こうの世界へ連れて行く。この世界から、奪う。そして二度と…こっちには帰さない」
ぐっ、と抱きしめる力が強まる。
「リオの姿を見つけた時、そう決めた」
「私を、向こうの世界へ…?」
「ああ。おれは海賊だ。リオが欲しいから、奪うよ」
…マルコさんにも似たようなセリフを言われたことを思い出す。さすが家族で仲間だなぁ。…なんて、口元を緩ませてしまった。
それを伝えたら、違う意味でエースに火がつくのは明白なので…ここは言わぬが花、かな。
抱きしめてくれるエースの背中に手を回す。
「…エースがクリスマスプレゼントだね」
「くりすます?」
「そっちにはこういう記念日が無いんだっけ。クリスマスっていうのは、みんなでケーキを食べたりプレゼントをあげたり貰えたり、恋人達が一緒に過ごしたり…冬の大きなイベントのことだよ」
「へぇ、冬のイベントか…」
「だから私のプレゼントはエースだなぁ、って」
「じゃあおれへのプレゼントは…リオがいい」
熱の篭った瞳が、私を捉えた。
その熱の意味がわからないほど、子供ではないし鈍くもない。頬が赤くなるのは…これは仕方ない。
エースが私の唇を奪っていく。
最初は優しく触れるだけ。唇を食み、舐め上げて。
次第に呼吸すら奪うような、深い口付けに変わる。
「リオ」
愛おしそうに、噛み締めるように。
腕の中にいることを確認するかのように。
私の名前を呼ぶエース。
エースの声に涙がひとつ、こぼれた。