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「エースくん、どっちとデキてんだろうなぁ…」
「どっちって…誰と誰?」
「白峰さんと赤崎さん」
「あー、雰囲気的には赤崎さん?」
「…だよなぁ…」

とある休憩室。
二人の男性社員が休憩しつつ雑談をしていた。
目下の話題は突如バイトとして職場に現れたエースについて。…と、彼の近くにいる女性について。

「えっ、赤崎さんのこと狙ってたの?」
「言い方!…ここ数ヶ月ですげぇ綺麗に…そんで、可愛くなったような気がするんだよね…」
「わからなくもない」
「触ったら柔らかそうだし…」
「お前はどこを見てんだよ!」

ははは、と笑い声を上げた二人。
そんな彼らの元に、背後から近づく影が。

「連絡先を聞いたら教えてくれるかなー」
「仕事にかこつけて聞いちゃえば?」
「すでに恋人いるかもしれないし…」
「…まぁ、その可能性は高い」

「リオに恋人がいるか、知りてェの?」

「っうおお!?え、エースくん!?」
「ビビったぁ!」

二人の背後に立ったのは、噂の本人。エース。

「ツバキが呼んでるぞ。休憩が長ェ、ってさ」
「ういっす…」
「エースくん!赤崎さんには恋人がいるのか?」

勇気を振り絞るように、一人が声を上げた。
エースは一瞬きょとんとした後、ニヤリと笑う。

「あァ、リオに恋人はいるぜ。炎の塊みてェな男が。リオを想うのもそれを伝えるのも、あんたの自由だ。だが、恋人がいると知っていながら想いを告げるという行為は、宣戦布告と同意義だ」

声を上げた男の肩へ、静かに手を置く。

「リオを奪うつもりなら容赦はしない。覚悟を決めてかかってこいよ。いつでも相手になるぞ」

“おれのリオ”に手ェ出すってのは…そういうことだ。

ぐっ、と手に力を込めた瞬間、青ざめた。
すぐに手は肩から離れ、エースも踵を返す。

そうだ。とドアノブを掴んだまま声を上げれば。

「リオは心もカラダも、柔けェよ」

まぁ…どっちも触れさせはしねェけど。

ほんの数秒。
休憩室の空気が重たくなった。
息を飲むほどのプレッシャーが二人を貫く。

エースが出て行くと、二人は大きく息を吐いた。

「……連絡先、諦めます」
「それがいい。妬かれるどころか焼かれるな…」

身震いして、二人もそそくさと休憩室を出る。
まるで、得体の知れない何かから逃げるように。


***


「リオー!」
「エース、椿の用事はもういいの?」
「ああ!会議を始めたいのに、参加する予定の二人が来ねェってんで代わりに呼びに行ってた!」
「すごい、ちゃんと働いてるねぇ…」
「おれは出来る男だぞ!」
「ふふ、そうだった!」

えっへん!と言わんばかりに胸を張るエース。
二番隊の仕事もそれくらい真面目にやれよい!
という、マルコさんの声が聞こえてきそうだけど。

次の面接立ち会いまで、私の方で何か仕事をお願いしようと思うのだが。何をしてもらおうかな。

書類系は無くされたり破られると困る。
こちらの機器の扱いは…大惨事を起こしそう。
それと、…みんなの視線が痛い…!!

「…よし、エースがいるうちに掃除をしよう!」
「掃除?」
「今年は清掃業者さんを呼ばないみたいだし、電球の取り替えとか、やれる所をやっちゃおう!」
「赤崎さん、うちらも手伝っていい?」
「ちょうど何か仕事を探してたんです!」
「もちろん!手が空いたら、お願いしまーす!」

両面使い終え、廃棄する書類をシュレッダーへ。
計算してまとめたファイルを段ボールへ詰めて。
面倒な作業を黙々と進めていく。
エースには電球、蛍光灯の取り替えを頼んだ。
女性陣がキャッキャしながら周りでサポートしていて、思わず笑ってしまう。パーカーを腕まくりして作業するエース…かっこいいもんなぁ。

交換し終えた蛍光灯類を紐で纏めてもらい、ゴミステーションへ。結構な量だが、軽々肩に担ぐ。
わぁ〜!と色めき立ったのは言うまでもない。

ゴミ捨てからの帰り。
上司が大きめの段ボールを抱えてエレベーターが来るのを待っていた。どうやら上司も掃除中らしい。

「あ、隊長。おれがひとつ持つよ」
「……段ボールはひとつしかないんだが?」
「へへ、だからおれが持つ!」
「…赤崎、」
「言い出したら譲りませんよ、エースは」
「はぁ…?…それなら、私のデスクまで頼む」
「おう!よゆーよゆー!」

おい、まるで私が非力みたいじゃないか!
上司が食ってかかるが、エースは涼しい顔。
そんなやり取りを見て私は笑ってしまった。

「赤崎、こいつ何歳だった?」
「二十歳です」
「…末恐ろしいな」

それには同感です。
フロアに着いて、段ボールを床に置く。
よぉし!隊長からの任務完了ー!と両腕を上げて喜べば、周りにいた人たちがつられて笑う。

周りを明るく、笑顔にする。
エースは太陽みたいな人だと、改めて思う。

大きな掃除は大体終わり、退勤の時間まであと少し。全員、残業することなく上がれそうだ。
ちなみにエースは掃除後、午後からの面接に顔を出してそのまま休憩室で寝ている、らしい。
慣れない仕事に集中して頑張っていたからね…。

「赤崎、ちょっといいか」
「はい?」

上司に声をかけられ、デスクへ向かう。
すると同じく椿もやって来た。

「どうしました?」
「今日連れて来たあいつ、…エースくんだが」
「エースが、何か!?」
「…時間がある時は、また来てもいいそうだ」
「…はい?」
「どうやら課長が気に入ったようでな。バイトとして契約しても構わないとまで仰っていた」
「んはは!!嘘でしょ、すごいなエース!」
「白峰、敬語」
「うーっす」

ジトリと睨まれる椿。意にも介してなさそう。
椿は椿で大物なんだよなぁ…。

「もう二人は上がっていい。他の連中が騒ぎ出す前にあいつを連れて帰れ。…初めての仕事にしては…いい動きをしていたと、伝えておいてくれ」

…褒めてる。このクソ上司が、褒めてる!!
エース、すごいなぁ!?
椿は笑って、私は頭を下げて。デスクから離れた。

ひと足先に退勤して、夜は焼肉にでも行こう!
と、二人でエースが寝ている休憩室へ向かう。
こっちのお肉も気に入ってもらえるといいなぁ。

「エース、起きてー!ご飯食べて帰ろう?」
「おー、んー、めし…?」
「うん。お肉食べに行こっか!」
「んー…リオ、リオ〜」

丸椅子に座ってテーブルに腕を置き、それを枕に眠っていたエース。頭を撫でて起こせば、腕を伸ばして私を引き寄せ、しがみつくように抱きしめる。
エース。エースくんや。椿が見てるので!
椿もそのニヤニヤやめてぇ!!

「つかれた…。モビーで働くより働いた…」
「頑張ってたもんね、お疲れ様」
「よっしゃエース!お酒を飲もうな!」
「ツバキの奢りなら…」
「…意識はっきりしてるでしょ?おい、火拳!」
「ふ、ははは!やった、飲むぞー!」
「眠れる獅子を起こしたね、椿」
「こいつ絶対ザルでしょ、うわヤダー!!飲み放題ある所にしよ。単品だと貯金が消し飛ぶわ!」

椿、私、エースの並びでエレベーター前に。
遠慮なく手を繋いでくるエース。
それを振り払うことなく、握り返した。

今日一日を無事に終えられて、ホッとする。
朝からずっと助けてくれた椿には感謝してもしきれない。私も彼女の力になれたらいいんだけど…。

…明日は土曜日、仕事も休み。
ゆっくり昼過ぎまで寝ていたいが、エースの服や身の回りの買い物もしたい。椿を誘いたい…けど、さすがに休日まで巻き込めないよねぇ…。

お肉!お肉!とテンションが上がってきたエース。
向こうの話、聞いてもいいかな!!とこちらは別の意味でテンションを上げている椿。
笑顔で歩く二人に、私もつられて笑ってしまった。

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