44

大晦日。
今年最後の一日。

掃除は昨日までに済ませた。
年越しそばは、茹でるだけ!具も上に乗せるだけ!
お出汁?世には出汁も売ってるのでね。助かる。
日本のおせちを食べてほしくて、出来合いの詰め合わせも買った。重箱なんて一人暮らしには必要ないので持ってない。お皿の上に並べるだけになる。
まぁ、そこはこだわらなくてもいいかな。
手を抜ける所はとことん抜く!

今日は神社へ手を合わせに行って、ケーキを買う予定。その後、自宅に帰ってのんびり過ごそうと思う。大晦日といえど、外出してる人は多い。

「なぁリオ、いつもと空気が違うな?」
「多分、大晦日だからかも」
「おおみそか?」
「うん。一年が365日あるのは…知ってる?」
「…それくらいは、知ってる!」
「ふふ、そうだよね。この日本では365日目が今日にあたってね。明日から新しい年に変わるから、みんな嬉しい空気を出してるんじゃないかな」
「なるほど」

手を繋いで街を歩く。
相変わらず周りをキョロキョロと見渡すエース。
景色も空気も向こうの世界と違うから、何度見ても、何度同じ場所を通っても、新鮮に感じるんだろうなぁ。そう思えるのは素敵なことだ。

今年一年の感謝を込めて、神社を参拝。
私の見よう見まねでエースも頭を下げる。
さぁ、次はお出かけのメイン!ケーキだ!

「エースはどんなケーキが好き?」
「ケーキ?」
「チョコとかモンブランとかさ!」
「リオと一緒に食うんだよな?」
「もちろん!私も食べさせてもらうよ!」
「じゃあ、二人で決めようぜ」
「ダメ。今日はエースの好きなケーキにするの!」
「お、おお?なんだ、力入ってんな…?」

そりゃそうですとも。
よくお世話になっているケーキ屋さんへ。
中へ入るとふんわり、甘い香りに包まれる。

ショーケース内で綺麗に並べられた、キラキラ輝く宝石のようなケーキたち。全て美味しそう。
ホールで買おうと思っていたけど、何種類か買うのも手だな。…私が真剣に見てどうする…!!
エースに視線をやれば、何故か私を見ていた。

「エース?えっと、どうしたの?」
「幸せそうな顔してんなァ〜!と思って」
「うっ!だってどれも美味しそうだから…!」
「ははっ、リオは見てて飽きねェぞ!」
「うぐぐ…私よりケーキを見て…!」

顔に熱が集まってしまう。
やめてください…!
手を引いて、一緒にショーケースを眺めた。

これがいい!とエースが指をさしたのは直径13センチほどの小さめないちごのホールケーキ。
エースなら一人でペロリといけそうな大きさ!
…なんて思ったのは秘密だ。
店員さんに声をかけて、それを購入する。
落とさないよう、気をつけなければ。

ケーキ屋さんから家の近くにあるドラッグストアへ寄り、お酒やおつまみにアイス等を買い込んだ。
ここでの購入品はエースに持ってもらって。
そのまま自宅へ戻り、冷蔵庫の中へ入れていく。

「アイス食べていい?」
「どうぞ!冬にそのアイスは体が冷えそう…」
「おれには問題ねェよ!たぶん!」

長方形でソーダ味の棒アイス。
夏の定番であって、冬に食べるには少しキツい。
エースはガリガリ食べてるけど。炎人間にはちょうどいい冷たさ…なのかな。え…本当に?

ストン、ともうひとつ長方形の箱が滑り落ちた。
なにこれ?手に取って表裏を確認してみれば。
極薄0.02mm。…私は店で入れた覚えがない。
というか、これが何の箱なのかエースわかってるの?…あ、もしや椿に聞いたな?そうでしょ!?
エースに視線を移せば、にっこり笑っている。

「それ、必要だろ?」
「ソウデスネ…」
「こっちにいる間も、ちゃんとしねぇとな!」
「…気遣ってくれてるのか、楽しんでるのか…!」
「両方、だよ」

話しながらもアイスを食べ続けるエース。
…これ、すぐに使い切りそうだなぁ。
なんて思ったのは秘密。

「早速、一つ使う?」
「使いませーん!!そのアイスを食べ終わったら、お風呂掃除してきてね!ピッカピカにして!」
「おう、了解。…照れてるリオも可愛いなァ!」

ぺろりと食べ終え、残った棒をゴミ箱へ入れると私に近づく。むぎゅう!と擦り寄るように抱きしめて、頬にキスされる。エースの冷えた唇に少し体を引けば、逃がさないと言いたげにがぶりと口づけ…いや、食べられ?た。
…スキンシップが濃厚すぎるよ!?

力いっぱいエースの体を押し、これ以上の接触を阻止する。お風呂掃除よろしく!そう言って離れた。
食料品を冷蔵庫へ片付けたら、日用品の入った袋を持ってキッチンを出る。…あのまま流されていたら、本当にひとつ使う羽目になりそうで。
有り余る元気は、掃除で発散させてください!


***


午後10時頃。
夕ご飯は早めに食べ、テレビを見ながらまったりしていた。こたつで暖まっていたエースが欠伸をひとつ。テレビを消してケーキを出そうかな。
何故、今日ケーキを買ったかというと。

明日がエースの誕生日だから。

「誕生日…」
「そう。明日でしょ?」
「あー、うん、まぁな。…別に祝わなくても…」
「祝うよ。だってエースが産まれた日だもん」

原作でエースが抱えているものを知った今。
この日が苦手なエースを、祝わない選択肢はない。

何故自分は産まれたのか。
産まれてきてよかったのか。
はたして生きる意味はあるのか。
生きていてもいいのか。
…愛されたいと、願っていいのか。

今でも胸の内で黒く渦巻く感情があるだろう。
深く深く、彼の心の奥底に。
親父さまや、白ひげ海賊団の皆さんがエースの心を救い上げてくれたことも知ってる…けれど。

「ちょっと早いけど。誕生日おめでとう、エース。
産まれてきてくれて、ありがとう。エースと出会えて、こうして産まれた日を一緒に祝うことができて。私はとっても嬉しく思うよ」
「……ん、ありがとう」
「エース。もう少し話があるの、聞いてくれる?」
「おう」

なんだ?と首を傾げるエース。

「エースは、愛されて産まれてきたんだよ。ちゃんとご両親に、望まれて。…なんて、偉そうに言っても、私の憶測と想像でしかないけど…。
でもきっと、“生きて欲しい”と願ってると思う。
エースがあの世界で生きていくことは、ご両親の
“生きた意味”でもあるんだよ。小さな頃から他人の声を聞き続けて辟易してるだろうし、私の言葉も癇に障るかもしれない。エースの気持ちは、エースにしか分からないから。…それでも言わせてほしい」

エースの前に座って、両手を握った。
真っ直ぐ目を見つめれば、揺れる瞳とぶつかる。

「私はエースを、愛してる」
「…リオ…」
「自分が誰なのか、何故生きているのか…それがわからなくなったら私が何度でも伝えるよ。あなたは“ポートガス・D・エース”で、偉大な海を進むため。高みを目指して、親父さまを海の王にするために。大勢の仲間や家族と一緒に、あなたはあなたの力で真っ直ぐ生きているんだ…って!」

見知らぬ私の身を、案じてくれる。
話をしたい、声を聞きたいと電話をかけてくれる。
好きと言えば好きと返してくれる。
危ない所を助けてくれて、抱きしめてくれる。
私の為を思って怒り、涙も流してくれる。
そして愛の言葉も、隠すことなく紡いでくれる。

たくさん、本当にたくさん。
エースは私に“愛”を与えてくれた。
私もエースを愛したいと、心から思う。

握った両手に、ぎゅっと力が加わる。

「…おれは生きていても、いいのか?」
「当たり前だよ。生きてほしい」
「愛されても、いいのか…?」
「うん。エースはたくさんの仲間や家族に愛されてるよ。エースが愛してるのも、知ってる!」
「リオは、おれを…愛してくれる、のか」
「もちろん。ずっと愛させてほしいな」

手を握ったままエースに近づく。
膝を立たせ頬に擦り寄って、キスをひとつ。
エースが手の力を抜いたので首へ腕を回して、
頭を包み込むように優しく抱きしめた。

私の背中に回された手は、遠慮がちに服を掴む。
いつも積極的なエースが恐る恐る…そんな風に。
優しく抱きしめていたけど、少し力を強めた。

「エース、誕生日おめでとう」
「リオ…っ、ありがとう…!」

震える声。
肩口が少し濡れているのは、気のせいじゃない。
何度も小さく、呟くように名前を呼ばれる。

ロジャーさんは、あなたの誕生を望んでいて。
ルージュさんは、二人の子であるエースを守って。

周りの声が傷をつけ、自分の存在を疑問に思う。
小さい頃からずっと…心に深く刺さっている。
私はエースと出会って誰より時間が短いけれど、
あなたを愛する一人として。

「生きていてくれて、ありがとう」

エースが産まれた日を、心から祝わせてほしい。


***


落ち着くまで抱きしめていたら、日付が変わった。
1月1日。エースの誕生日。
エースに声をかけて体をそっと離す。
涙は流していなかったけど…目が少し赤い。

「エース、一緒にお風呂入ろっか?」
「…おう」
「誕生日だから、特別だよ」
「……そう言われると…誕生日も悪くねェな」
「ふふ。でも、えっちなことはしないでね?」
「それは無理だ。我慢できるわけがねぇ」

赤くなった目元に唇を寄せる。
口角を上げて笑ったエース。

「リオ、リオがほしい」
「全部あげるよ」
「相変わらず、即答してくれるなぁ…」
「その代わり!」
「ん?」
「エースをちょうだい?」
「あァ、おれでよければ貰ってくれ」
「エースがいい。エースだけがほしいの」

そう言った直後、強く抱きしめられた。
私も負けじと抱きしめる。
なんだか可笑しくなって笑みがこぼれてしまう。

ふわりと体が浮き、エースの足はお風呂場へ。

「ねぇエース、ケーキはどうする?」
「今はリオが先だ」
「わぁ…私、食べられちゃうのか…」
「時間をかけて、食べ尽くすよ」
「っ、お手柔らかに…お願いします…」

なんだか意地悪そうな笑顔。
体力も意識もなくなるんだろうなぁ。
なんて、頭の隅で思いながら脱衣場に入って行く。

こうして誕生日の夜は…更けていった。

prev : next


  Back  Top