週末、金曜日。
仕事を終えて会社を出る。
今週もよく頑張った。えらいぞ私…!
同期から飲みに誘われたが丁重にお断りした。
今夜はレンタルしたDVDを見ると決めていた。
借りたのは前々から気になっていた光のお父さん。FF14は分かんないけど、大杉さんが出演してるって知ったのでね。見てみたくなったんだ!
コンビニへ寄って炭酸飲料を数本購入。
何故お酒ではなく炭酸かというと、アルコールが入ると眠たくなるんだ…。全話見るつもりだから寝落ちないように、という意味もある。
炭酸にチョコ、おつまみも買っていこう!
ご機嫌で家路に着いた。
帰宅後すぐにシャワーを浴び、少しだけご飯を食べたらDVDをセットする。コンビニで買ったものをテーブルに並べて、準備完了!
さぁ早速、本編を見るぞぉ!
意気揚々と再生ボタンに手をかけた瞬間、スマホが着信を知らせる。画面には非通知の文字。
時計に目をやれば、いつもの時間。
ふむ、今日もかかってきたか。水曜日から連日電話が来てるので、本日で3日目となる。
『よぉ、おれだ。ポートガス・D・エースだ!』
「こんばんは、ポートガスさん」
『おう!こんばんは、リオ!』
元気で明るい声に、思わず頬が緩む。
最初に名乗ってください。という私の言葉をちゃんと守って、必ずフルネームで名乗ってくれる。約束をきちんと守る彼に好感度が上がっているのは言うまでもない。
『今日も仕事だったのか?』
「はい。でも明日は休みです!」
『お、そいつはよかったなァ!お疲れさん!』
「ありがとうございます。ポートガスさんは今日、何をしていたんですか?」
『溜まった書類と格闘してた…』
「文字、書けるんですか」
『失礼だな!文字くらい書けるぞ!?』
「ふふふ、冗談ですよ!海賊にも書類とかあるんですね。自由気ままにお金や物を使ってる…そんなイメージを持ってました」
『そういうのに細けぇ奴がいるからな』
「マルコさん、ですか?」
『大正解』
苦笑いするポートガスさん。
昨日彼と話した時に出てきた“マルコ”さん。
船員の中でもだいぶ古株な人であり、ポートガスさんの兄貴分的な存在…らしい。
船長さんのことを“オヤジ”と呼んでいるし、なんだか家族みたいですね。と言うと嬉しそうに
『ああ!最高の家族だ!』そう返ってくる。
彼にとってそこが大切な場所だとよく分かる。
夜になってポートガスさんの所では雨が降り始めたらしく、引き続き書類の整理をしているとのこと。遅くまで大変だなぁ。
『リオの住んでる所の気候はどうなんだ?』
「気候ですか、こちらは秋から冬に変わりつつあるので、朝晩は肌寒くなってきましたよ」
『へぇ。肌寒く、か。おれには無縁の言葉だ』
「もしや一年中暖かい所にお住いですか?」
『いいや、そういう意味じゃねェよ』
おれはメラメラの実の能力者だからな。
なんとなく、不敵に笑った気配を察知する。
メラメラの実。…実??なんだろう、唐辛子とかハバネロとか香辛料系のことかな。
今のように、たまに謎の言葉が出てくるのは珍しくない。聞き返してもよく分からないので、そういうものがある・と思うようにしているけど…。
『能力者のことも知らねぇのか?』
「なんだかすごい人というのは察せます!」
『なんだかすごい人!』
電話の向こうで笑う声。
ポートガスさんが楽しそうに笑うので少しムッとしてしまう。まるで私が世間知らずの人間みたいではないか。
これでも数十年は生きているのだからある程度、必要最低限の知識は持っていた…つもりなのに。
私が黙ったのに気づいたようで、彼は笑うのをやめて咳払いをひとつ。…誤魔化せてないぞ!
あなたの常識は私にとって非常識なんだ!
『おれの能力を間近で見たら、リオはぶっ倒れるかもしれねぇなァ。はは!見せてやりてェ!』
「その後、張り倒してあげますよ!」
『おー!そりゃ怖ェ怖ェ!』
「くっ、バカにされていますね…」
『いいや?からかってるだけだ』
「同じ意味です!」
また笑い出すポートガスさん。ちくしょう。
笑い声の向こうで地面を叩きつけるような、激しく降る雨の音が聞こえた。海の上だとかなり大変そうだけど、大丈夫なのかな。
「あの、そちらの雨は大丈夫ですか?」
『なかなかの豪雨になってきたな。夏島が近いって航海士が言ってたからその影響だろう。当分、部屋からは出られねェ感じだ』
「夏島?というのは…」
『ああ、こっちの島は春夏秋冬それぞれで季節が分かれてる所が多いんだ。夏島ってのはほぼ一年中夏みてぇな暑さの島・ってことだな』
「ポートガスさんは不思議な世界にいますね…」
『次の島はどんな島か、楽しみでもあるぞ!』
夏島の次は秋島、順番通り季節が進む所もあれば、急に冬や春に気候が変わったりする。
それも慣れちまえば楽しいもんさ。
事も無げに言うが、果たしてそれは慣れるものなのか。夏の次が冬、とか…頭も体も混乱しそう。
そんでな、とポートガスさんが話しかけてきた直後。雨さえかき消すほど強く、扉が開かれる音と大きな声が彼の背後から聞こえた。
『エースてめェ!!珍しく書類やってると聞いて感心して足を運んだってェのに!どこの誰に電伝虫繋げてんだよい!!!貸せ!』
『うお、勝手に入ってくんじゃねぇよマルコ!』
『はァ?思春期の若造じゃあるめェし!いいからそれ、さっさと渡せってんだよい!!』
『海に投げ捨てる気だろ!?誰が渡すか!』
『ほォー?舐めた口叩くじゃねェの、エース?』
張り詰めた空気を電話越しでも察知する。
口論の相手は先程も名前が出た、マルコさん。
いやでも確かに、書類整理してると思ってたら実際は電話してる・って、まぁ、なめてるよね。
怒るマルコさんの気持ちは分からなくもない。
こういう時は。
こちらから通話を切ってしまうに限る。
私が余計な口を出して、更に修羅場になったら困るし。何より自分の説明に困る。
「ポートガスさん、」
『!リオ、通話切るんじゃねェぞ!』
「お仕事、頑張ってください」
『切るつもりだな!?待てっ…うぉぉおおい!?炎チラつかせんのやめろよマルコォ!』
「また色々なお話を聞かせてくださいね」
『!!ああ!もちろんだ!』
「それでは」
『おう。またな!』
爽やかに挨拶を交わす彼の後ろで、マルコさんの怒鳴り声が響く。ポートガスさんが弟だと、お兄ちゃんは大変ろうだなぁ。電話を切った後も何かしら言い合ってそうな気がする。
想像して、小さく笑ってしまう。
スマホを置いてテレビ画面を見る。
そうだ、DVDを観るんだった。
電話に集中していた自分に少しだけ驚く。見知らぬ人とここまで会話が弾むとは。ポートガスさんは不思議な魅力を持っているな、と思う。
明日もかかってくるだろうか?
ちょっとだけワクワクしているのは、秘密。