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「コイツにゃ手ェ焼くだろうが、よろしく頼むよ」

現在地、アラバスタ。
砂の王国、アラバスタ。
目の前には麦わらの一味。

まさかエースの隣で、本人の名言を直接聞くことになるとは…思ってもみなかった。

エース率いる白ひげ海賊団・二番隊は“ナワバリを見回る”ため、偉大なる航路グランドラインを逆走している。
もちろん親父さまの許可を得ての出航だ。
マルコさんには薮蛇するなよと釘を刺されている。
各隊長たちからはお土産たくさんよろしくな、と。

見回る条件として、必ず一年以内に戻ること。
定期的に報告の便りを寄越すこと。
もしナワバリを奪われていたら“ティーチさん”じゃなければ奪い返せ。そうだったら手を引け。
これも、条件として挙げられた。
条件を飲めなければ見回りには出さない。と。

エースは三つ目の条件を渋ったらしいが、サッチさんの「弟に会いたくねェの?」という一言に頷いたらしい。つい先日、誕生日を祝ったこともあり海へ出た弟…ルフィに会いたい気持ちが勝ったようだ。

ここ、アラバスタへ辿り着くまでも…まぁ、本当に大変だった。さすがルフィの兄、というべきか。
トラブルメーカーな体質は弟にも引けを取らない。
船長だった頃よりはだいぶマシになった。遠い目をするエースの相棒、デュースさんはそう語る。

デュースさん。
元・スペード海賊団の副船長。
マスクド・デュース。
現在は白ひげ海賊団内で船医として活躍している。
前回私と会わなかったのは、ちょうど白ひげ傘下の船へ出張していたから…らしい。
私との初対面では「エースの恋人!?…正気か?」と引き気味に心配された。正気も正気です。

おっと、話を戻そう。
ナワバリを逆走するにあたって、麦わらの一味の情報も随所で集めていた。そしてついにアラバスタで原作通りの再会…となったわけだ。

「ところでよ、エース」
「ん?」
「そっちの人は誰だ?」
「ああ、おれの恋人!」
「「「恋人!!?」」」

この場にいる全員が戸惑っている。
そりゃそうだよね。
私もこの場に居るべきではないって分かってるんだよ!?でも抱えられて来ちゃったもんだから身を隠そうにも隠せなくて!どうにかして空気になろうとしたけど無理でした。…とても気まずい!!

「白ひげ海賊団、一番隊で経理を担当しています。
リオと申します。よろしくお願いします…?」
「なんで疑問形!?」
「経理を担当って何よ!?」
「ひ弱そうだな」

上からウソップ、ナミ、ゾロのからのコメント。
素直なツッコミありがとうございます…。
肩を抱くエースの腕をすり抜け、後ろへ下がる。

「エースの恋人?」
「分かりやすく言うとだな、お前の姉ちゃんだ!」

姉ちゃん。
詳しく説明するよりそっちの方がルフィには分かりやすいのかな。普通ならギョッとしそうだけど…。
私を含めるその場にいた全員が戸惑いの表情を浮かべる中、ルフィは「なるほど!」と納得していた。
さすが兄。弟の思考をよく理解していました。
そして私の方へぐっと近づきにっこり笑う。

「エースのこと、よろしくな!リオ!」
「!はい、任せてください!」

目を合わせて深く頷けば、にしし!と笑うルフィ。
彼は彼なりに弟として兄を心配していた…のかな。
この破天荒兄弟の心中は察せないけど、互いを思い合ってるのはわかる。本当に素敵な兄弟だなぁ。

一通り挨拶を終え、“黒ひげ”に関する情報を共有。
そしてルフィたちの現状を聞いた。
エースのビブルカードをルフィへ手渡し、エースを狙った海賊たちを火拳で一蹴する。苛烈で華麗だ。

燃え盛る海上を見つめていたら声をかけられた。
麦わらの一味の航海士、ナミから。

「あなたも何かの能力者?」
「いえ、至って普通の一般人です」
「一般人が四皇の船に乗ってて大丈夫なの…?」
「そうですねぇ。大丈夫ではないんでしょうけど、なんとかなってます!きっとエースのお陰です」
「…なるほど。守ってもらってるのね」
「はい。まさしく!…でも、いつか私も」

あの人を、エースを。守りたいんです。

私の言葉を受けてナミが何かを発しようとしたが、それより先に炎を纏ってエースが戻ってきた。
ニッと不敵な笑みを見せると頬を包まれる。

おかえりなさい。
おう、ただいま!

「そういうこと。なによ、守れてるじゃない」
「?」
「あんた達、見せつけてくれるわねぇ!」
「え、いや!別にイチャついてるわけでは!」
「ラブラブだな!」
「ルフィくん!?」

いつも通りの軽いスキンシップだと思っていたけどまさかこれってイチャついてる部類に入るの?
くっ、ついに自分の中の常識を疑う時がきた…!
額に手を宛てて空を仰ぐ。
アラバスタの空は見事な快晴だ。雲ひとつない。
…でも何日か後に雨が降るんだよね。
黒幕であるクロコダイルをぶっ飛ばして。

思わず麦わら帽子の彼を見つめてしまう。

「ん、どした?」
「いえ。…頑張ってくださいね、ルフィくん」
「おう!!」

力強い返答と揺るがない瞳に安堵した。
ルフィなら絶対大丈夫だと確信さえ持てる。

原作の顛末を知っているとはいえ、本来起こるはずの事象を捻じ曲げた私からするとルフィの冒険も
“別の結末”になってしまうんじゃないだろうか?
…そんな不安があった。でも、余計な心配だったと思い直す。主人公は、伊達じゃない。

口元を緩めて笑えばルフィもニッコリ笑う。

「それじゃあまたな、ルフィ!仲間たちもな!!」
「突然失礼しました!皆さん道中お気をつけて!」

再びエースに抱えられ、メリー号の手すりからストライカーへと降り立つ。ルフィが「またな!」と大きな声を上げて見送ってくれた。それに応えるよう二人で手を振り返し、アラバスタ沖に停泊させている船を目指して海上を進んで行く。

エースを見つめてみれば嬉しそうに笑っていた。
変わらない弟。
その弟が連れた仲間たちと会えたこと。
兄の顔をしたエースは、確かに、笑っていた。

「…リオ?なーに笑ってんだ?」
「ふふ、エースがお兄ちゃんしてたなぁ!って」
「そりゃあ…兄貴だからな」
「また会えるといいね」
「会えるさ。おれたちは同じ海にいる。目指す先も同じ。ま、この海の王になんのはオヤジだけど!」

前を見据えるエースの瞳に曇りも陰りもない。
なんだか嬉しくて思わず抱き着いた。
何事もなく船へ戻ればすぐに出航の合図が出る。
アラバスタの海域を抜け、次の島へ。

いつか、どこかで。
麦わらの一味と会えたらいいな。



***



いくつかの嵐と摩訶不思議な現象を起こす海を乗り越え辿り着いたのは温暖湿潤気候の穏やかな島。
船の見張りを数名残し、ほぼ全員で島へ降り立つ。
港は大きく、人口も多い。
島の中央部では農業や林業も盛んだと耳にした。

それだけ栄えた大きな島だから海賊や海軍の入港も当然ある。だが、ここは親父さまのナワバリ。
“四皇・白ひげ”が管轄する島ということで他の海賊たちは略奪行為を行わないらしい。海軍も補給をするだけに留まり、島民に余計な圧をかける…なんて真似もしない。人々は安全に暮らせている。

全ては、親父さまの“逆鱗”に触れないため。

「島にいなくても遠くにいても、守ってるんだね。やっぱりすごいなぁ、親父さまは…!」

偉大すぎる。
しかもそれを鼻にかけない。親父さまかっこいい!
恐れ多くも白ひげ以外の二つ名が出来るとしたら、
偉大なる親父さまグランドファーザー”だろう。
…いや、うーん、安易!ボツ!!

港町、それに連なる大きな街。
島の中腹にある村、さらに奥の方で存在する里。
島民たちが暮らす場所を見回りつつ“黒ひげ”の情報を探る。風の噂、小さな情報でも拾っていく。
今のところこの島でも近海の島でも彼の存在は確認されていないようだった。ティーチさんが悪逆非道な行動をとっても、親父さまのような海賊になったとしても、警戒を怠ることは出来ない。

こうして島を見回ること一週間。
問題がなければ明日の早朝、出航予定だ。
そう。問題がなければ。

「リオ、まだ帰ってきてねェのか?」
「はい…」
「ったく…!何年経ってもあの男は自由だな!!」

出航までには帰ってくる。
と言いエースが船を降りたのは一昨日。
現在、出航日の前夜。
島の奥地まで行っているのだろうか。
冒険心と好奇心の塊。さすがルフィのお兄ちゃん。
反対に胃の辺りを摩っているのはデュースさん。

探しに行きたいけど、ここは海賊船の出入りが多い港でしかも夜。親父さまの海賊旗を掲げるこの船から“女が一人で”降りていると周りに知られたら。
能力者ではない、腕っ節もない、普通の人間である私は一発で他の海賊に捕まりクルーの皆さんに多大な迷惑をかけてしまうことになる。
結果が目に見えているし、身の程は弁えよう。

数名が船を降りてエースを探しに出た。
彼らを見送ってから島が見える手すり…ではなく、壁側に寄りかかる。手すりだと狙撃される可能性があるんですってよ!本当に物騒な世界だなぁ…。

夜空には右上から欠け始めた月が浮かんでいた。

「なァ、あんたも白ひげのクルーなのか?」

突然右前方から声がした。
暗闇に紛れて手すりに誰かが乗っている。
壁に寄りかかるまで、そこに人はいなかった筈。
気配を察知する能力がなさすぎて悔しい。

問いに応えず黒いシルエットを見つめる。
瞬きを繰り返してようやく輪郭を捉えた。
…私は小さく、息を飲む。

「至って普通の民間人、そう見受けるが。何せ白ひげの船に乗っているんだ。事情があるんだろう」

黒いシルクハット。つばの上にはゴーグル。
夜闇に溶け込むような黒いコートを羽織り、首元に白いスカーフが巻かれている。
そしてどこかで聞いたことのある…特徴的な、声。

「そんなに警戒しなくていい。おれは海賊でも海軍でもない。通りすがりの者だ。ここ一帯の島を回り情報収集している。黒ひげ、と名乗る男のことを探ってるんだが…あんたは何か知らねェか?」

エースとルフィの、もう一人の兄弟。
革命軍に所属する…その人。

「あなた、は…」
「ああ、おれの名はサボ。よろしく頼むよ」

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