「赤崎、最近なんだか楽しそうだよね」
たまには飲みに行こう!と同期に誘われ、仕事を終えてから指定された居酒屋へやって来た。
お疲れさーん、とグラスを軽く合わせお通しに手をつける。さて何を食べようかな、焼き鳥がいいか唐揚げがいいか竜田揚げもいいなぁ。あ!カプレーゼがある。オシャレ〜!!なんて、メニューを眺めていたら冒頭のセリフが飛んできた。
「で、これまた最近、寂しそう」
「いや、どっちに見えてんの?」
「んふふ!今は“寂しそう”かな!」
寂しそう。自分ではそんな自覚はない。
そもそも、寂しくなる理由もないし。
彼氏いないだろ・って?や、やめてさしあげろ!
何故そう見えてるのか尋ねると、なんとなく。
ふわっとした答えが返ってきた。
なんとなく、か。
「…そっちこそ、彼氏とはどうなのさ」
「連絡はしてるけど会えてはいないからなぁ。
遠恋はだいぶツラいよ、会いたいと思っても会えない現実がマジで精神的にきつい!赤崎も遠い所にいる男を選ぶのはやめときなね」
「ガチのご意見ありがとうございます…」
深めのため息を吐かせてしまったので、お酒のメニュー表を手渡す。この話を振ってごめんだよ、たんと飲むがいい…!
自分たちの恋愛話は置いておくとして、周りの誰それが付き合ってるだの、あの人が寿退社するだの、あの先輩は海外へ出向するだの。同期は一体どこからその情報を仕入れているのだろうか?
軽く身震いしてしまう。
時間が経つにつれ、お酒も入っているからか、話題は上司の愚痴も含めてなかなかゲスい流れになっていく。危なくなる前にお酒は止めておこう、とウーロン茶に切り替えた。
スマホの画面を触って時間を確認する。
23時前、か。
「なんか、スマホ気にしてない?」
「え?」
「そわそわしてる空気を感じる」
「そんなことないよ!」
うん、そんなことはない。
…ことも、ない。もしかしたらポートガスさんから連絡が来るかもしれない。そう思っているのは本当だ。あれから二週間、非通知から着信は一件も無くてポートガスさんと話したのは夢だったのではないか?と自分を疑い始めてしまう程には、連絡を待っている。
最初はめちゃめちゃ警戒してたんだけどなぁ。
二週間、か。
きっとマルコさんに捨てられたか壊されたか…。どっちにしろ、彼の手には無いんだろう。
「そっか、これが寂しそうに見えたわけか…」
「ん?なになに?」
「ううん、なんでもないでーす。そろそろお開きにするよ!会計は折半でいいよね?」
「いいよー!はー、飲んだ飲んだ!」
会計を終えて駅へ向かう。
いい感じに酔っている同期が腕を組んでくる。
人恋しくなってるな、これは。
ヨシヨシ、頭を撫でると涙声で「会いたい〜」と呟いた。そうだね…、会いたいよね。
遠距離恋愛だけど頑張ってる同期はえらいよ。
電車に乗ったのを確認して、私も帰路に着く。
何事もなく帰宅して上着を脱ぎ、適当に放るとソファーにそのまま沈む。とても眠たい。
せめて化粧だけは落とさねば。眠気に負けそうな腕を奮い起こして立ち上がり、洗面所へ。
しっかりメイクを落とし、洗顔と肌ケアまできちんと済ませ、そうしてベッドへ辿り着いた頃にはもう眠たさの限界だった。
おやすみなさい。
***
翌日の朝、8時。
時計を確認した所で目が覚めた。
これは遅刻確定ですわー!慌てて準備を始める。せめて電車が遅延、もしくは止まっててほしい!そう絶望的な祈りをしつつ。
急いで駅のホームへ着くと長い列に並ぶ。
通勤ラッシュのど真ん中だ…。肩を落としながら持ってきたモバイルバッテリーを刺してスマホの画面を確認すると。
“非通知着信 二件”
「嘘でしょ!!?」
声に出した瞬間、前の若者が振り向いた。
思いのほか大声が出てしまった。すみません。
えっ、二件!二回もかけてくれたんだ。
…いや、落ち着け私。これがポートガスさんからだと何故わかるの。間違い電話かもしれない。
淡い期待は持たないでおこう。
スンッ、と真顔に戻してスマホも鞄の中へ。
通勤ラッシュでがっつり体力と心を削られたが、なんとかギリギリ遅刻せずにすんだ。
まぁ、それがせめてもの救いだよね…。
はぁぁぁあ、と息を吐いて座ったら昨晩一緒に飲んだ同期から社内メールが届く。
“おはよう!昨日はありがとう!
ねぇ、もしかして良いことがあった?”
驚いて同期の方へ顔を出せば、とてもいい笑顔でサムズアップされた。いやだから、なんで分かるの!…私が分かりやすいだけ、なのかな?
緩んでいるであろう頬をムニムニと揉む。
彼は今夜も連絡をくれるだろうか。