定時で上がれるよう仕事に集中して、帰宅後は急いでご飯もお風呂も歯磨きまで済ませた。
準備万端の状態でベッドに正座する。
「…いやいやいや、落ち着いて、私…」
足をくずして布団に倒れ込んだ。
本当に、一体どれだけ心待ちにしていたの。
今夜も連絡が来るとは限らないじゃない?
ゴロゴロしていたら、着信を知らせる音楽が。
勢いよくスマホを手に取り画面を確認すると。
見知らぬ番号が表示されていた。
そう、非通知…ではない。
応答ボタンを押すのを、ためらう。
知らない人だったら?
その間にポートガスさんから着信があったら?
私からは折り返しかけることは出来ない。
話すチャンスが、なくなるかもしれない。
今回は意図的に無視することにした。
かかってきた番号を控えて検索してみよう…と、したが。改めて番号を見ると日本からの電話ではないっぽい。固定電話でもなさそうだし、頭に090や080がつかない・って、そういうことだよ…ね…?
おや?と首を傾げる。
すると、再び着信がきた。
恐らく先ほどと同じ番号から。
仕方ない、出てみようか。間違い電話かもしれないし、言語が違ったら…即切ってしまおう。
「はい、どちら様『リオ!!』です、か」
私の名前を呼ぶ声。
この声はポートガスさんではないか。
『あ!おれだ、ポートガス・D・エースだ!なァ、覚えてる…よな?リオ、…リオ?』
「…はい、覚えています。ポートガスさん」
『よかった!連絡遅くなっちまって悪ィ!元気だったか?怪我とか病気とかしてねェか?』
「私は元気ですよ。ポートガスさんこそ、お元気でしたか?連絡をくださったということは、マルコさんから無事返ってきたんですね」
『おれも元気だぞ!…マルコとのやり取りはすっげー大変だった…。でも、連絡して構わねェよい…って!昨日返してもらえたんだ!』
マルコさんの口調を真似しながら、嬉しそうに話すポートガスさん。本当に元気そうだ。
久しぶりに耳にするポートガスさんの声はいつもより温かく聞こえる。…気のせいだろうけど。
非通知ではなく番号が表示されていたのは、この手に詳しい方が力を貸してくれたそうだ。
アドレス帳に登録出来るのはとてもありがたいし、画面に名前が出るのは今後の為にも助かる。
『そうだ、イゾウ…仲間からこんな時間に女性へ電話するなんて、って怒られたんだ。だから、その。今の時間は話しても迷惑じゃねェ…か?』
「そういう気遣いが出来る方もいらっしゃるんですね…。大丈夫ですよ。日中は出られないので、むしろ今の時間帯の方がありがたいです」
『そうか!よかった!……ん、待てよ。それじゃおれは気遣いが出来てなかったってことか?』
「すみません、そこは掘り下げないでください」
なんでだよ!と頬を膨らませていそうな声色に笑ってしまう。いやいや、きっとそういう気遣いが出来るポートガスさんは、ポートガスさんではないでしょう?そう思う私である。
その後、ポートガスさんは夏島から冬島、秋島を経由して今は春島に居るとのこと。新しい島へ向かうたびに季節が変わる、というのはやはり大変そうだ。
今日は島で春祭りという催しが開催されていて、ポートガスさん達も参加したらしい。
海賊を歓迎する所もあるんですね?と問えば、ここはオヤジのナワバリだからな!と返ってきた。ナワバリ。なんとも海賊っぽい単語。
というか、海賊ということを否定しないあたりポートガスさんは無自覚で話しているんだろうなぁ…。これぞポートガスさんって感じだ。
二週間も間が空いていたけれど、それを感じさせない彼とのやり取りにホッとする。
『リオは?』
「はい?」
『なんか変わったこと、あったか?』
「そうですね…。友人とご飯へ行ったのですが、彼女から最近の私は楽しそうだけど、今は寂しそうだねって…言われ…」
そこまで話して、口を噤んだ。
何を口走っているの。これは別にポートガスさんへ言わなくてもいい話じゃない?
『…なァ、それって』
おれからの電話がなかったから、か?
「ちちちちち違いますよ!?」
『ふーん?』
「なんですかその勝ち誇ったような声は」
『おれもリオの声を聞きたかったぞ』
「だから!違いますってば!」
『ははは!照れんじゃねェよ!』
「照れてません!」
からかわれている気がする。ちくしょう。
布団へ倒れ込むとあちらに音が伝わったのか、もう寝る時間か?と訊ねられた。
まだ大丈夫です。そう応えはしたけれどポートガスさんが無事だと知って安心したこともあり、少しだけ瞼が重たくなってきた。
無理はいけない、かな。
今日はほぼ遅刻も同然だったし。流石に連日遅刻するのは避けたい。上司にあれこれ文句を言われるのも癪だ。脳天からハゲろ。
やっぱりそろそろ寝ます。と、話しかければ
『わかった。そんじゃ、またな!』
「はい、それでは」
『おやすみ、リオ』
「お…おやすみ、なさい」
就寝の挨拶が飛んできた。
そりゃ動揺もするでしょ…!
今まで交わしたことのない挨拶だもの。
通話を切ってスマホをベッドサイドへ置く。
ポートガスさんが元気そうでよかった。
まずはそれに尽きる。
マルコさんから許可が出たのも。
ポートガスさん、頑張ってくれたんだろうなぁ。私と話をするために。…そ、そっか。私と話すため、だった。自分で言って照れてるなんてだいぶヤバいのでは?
目を閉じて浮かんでくるのは
『リオ!!』
元気で嬉しそうな、彼の声…だった。