ポートガスさんの電話番号を登録してから、安心して応答出来るようになった。やはり名前が表示されるというのは、とてもありがたい。
が!しかし。
休みの日に私の方から電話をかけてみたら
“こちらの番号は現在使われておりません”
という、アナウンスが流れた。
もちろんその日もポートガスさんからは着信があったし、応答もできた。…どういうことだろう?
不思議現象すぎてわけがわからない。
『リオ、どうした?』
「はっ!すみません。物思いにふけってました」
『通話中にか!?』
「なんで私からは電話出来ないんですかね…」
『おれに聞いても無駄だぞ』
なんせ詳しくねェからな!
…胸を張って言われても反応に困る。
私も分からないし、お手上げってことだなぁ。
はい、今日も今日とてお話してます。
さすがに毎日ではないけれど、週に三回は連絡が来ているかな?相変わらず他愛もない話をしている。ポートガスさんと連絡を取り始めて一ヶ月は経っただろうか。
「そういえば、ずっと聞きたかったんですけど、ポートガスさんっておいくつなんですか?」
『ん?ええと、歳か。…おれは何歳だ?』
「数えてない感じです?」
『いや、普通に忘れてる。あー、よし!ちょっと待っててくれるか!』
ガタン!
勢いよく椅子から立ち上がる音と、バタバタと駆けていく足音が耳に届いた。
もしかして誰かに聞いてくるのかな。
いやいや、まさか他の人が把握してるなんて…。
『20歳になるみてェだ!』
「どなたに聞いたんです!?」
『マルコ』
マルコさん有能すぎでは?
20歳、はたち…。…20歳!?ポートガスさん、年下だったのか。言われてみれば納得な気もする。
ちょっとだけ幼い感じが出てる時、あるもんな。
話を振った私にも同じ質問が飛んできたので素直に答えるとポートガスさんは黙ってしまった。
「ポートガスさん?」
『マジかよ…』
「もっと若い子と話したかったですか?」
『そういう意味じゃねェ!年下だから敬語使ってんのかなァ?と思ってたんだ。おれのが下なわけだろ?もっと砕けて話せばいいのによぉ…』
なんだか拗ねているような口ぶり。
親しい人が相手なら普段通りに話すのだけれど、基本的に電話越しの会話は敬語になってしまう。仕事でもそうだから、癖みたいなところもある…かな。
心の声はいついかなる時もタメ口だけどね!!
あの口ぶりから察するに、ポートガスさんは私に敬語を使ってほしくないんだろう。
違和感は感じないしこのままで良いのでは?
「敬語で話かけられるのは嫌ですか?」
『嫌じゃねェ、けど。壁があるな…と思う』
「壁ですか」
『まだ警戒されてるんだなァ…っていう、壁』
「なるほど」
しょんぼり感が伝わってくる。
確かにポートガスさんは悪い人ではない。
騙すような人でもないのは、この一ヶ月近くの会話で充分知り得ることが出来た。
言葉は真っ直ぐで、裏表もない。打算的に話をしている様子も全く見受けられない。
彼にだいぶ気を許し始めているのも確かだ。
「ポートガスさんは、可愛いですね」
『………は?』
「仲間の方々がポートガスさんを手助けしてくれるの、ちょっとわかる気がします」
『可愛くはねェぞ!?おれは!大丈夫かリオ!?』
「そういうところですよ」
『いや分かんねェから!!』
うん、今のポートガスさんは弟感すごい。
電話の向こうで「つーか話逸れてんだけど!」
なんて、むくれている声が聞こえる。
壁を感じるというのなら、少しずつ口調を砕けさせていこうかな。いきなりタメ口全開で話す!というのは、さすがにハードルが高い。
『あれだ、おれも敬語を使えばいいのか!…いや、無理だな。すぐボロが出る。使い慣れてねェのもリオにはバレちまうだろうし…』
「エース、くん」
『かと言ってこれ以上お願いするのは、駄々をこねてるようでめちゃくちゃ格好悪ィよなぁ…。
………リオ、今、おれのことなんて呼んだ?』
「エースくん」
ガタガタガターンッ!!!
盛大に椅子が倒れた音がこちらにも届く。
そんなに衝撃を与えたのだろうか。
今の音、かなりすごかったけど椅子は壊れてないかな。まさか座って倒れたとかじゃないよね?
「大丈夫ですか!?」
『あ、ああ。大丈夫…』
「やっぱり名前で呼ぶのはダメ、ですかね?」
『ダメじゃねェ!あー、その。心の準備が出来てなかった。ノーガードで殴られたみてェだ』
「壁を少しずつ無くそうと思いまして」
『いきなり壁なくなったけどな!?』
言われれば、そうだ。
今まで名字に敬称を付けていたのに、突然名前に“くん”を付けて呼んだのだから。
そうか。だから、ノーガードで殴られた・と。
言い得て妙だな。ポートガスさん…もとい、エースくんの言葉にじわじわと笑いが込み上がる。
「ふふふ、エースくん上手いですね」
『なにが!…マジで待ってくれ…すっげー嬉しいのに心が追いつかねぇ。ええと!ありがとう!』
「ありがとう?」
『おれの名前を、呼んでくれて!』
「こちらこそ、呼ばせてくれてありがとう」
なんだこれ照れる!
そう言って向こう側で何か色々な音がするけれど、これは突っ込まない方がいいやつかな。
椅子が倒れたことに驚いたのか、ドアが開く音と数名の声が耳に届く。その声はどれもエースくんを心配するもので。皆さんから可愛がられてるんだなぁ!そう微笑ましく思う私なのであった。
『エースお前、リオちゃんと何話してんだよ?』
『名前で呼んで欲しい、と、伝えたかい?』
『親しくなりたいのなら花を贈るといいぞ』
『エースは意外とウブいからなァ…』
『『『『お兄ちゃん達、心配!』』』』
『うるせー!!まだ話の途中だ!出てけ!』
うん、とっても微笑ましい。