伊賀崎孫兵side

僕には、よくわからないけど。ある時、天女様という方が天から舞い降りて来たらしい。見てもないし興味もないから、その辺の事情はよくわからないけど。生物委員の仕事をしてる時に、一年生たちが話していた。僕はその時、ジュンコとか毒虫達のお世話で大変だったから「ふーん。」て感じ。まぁ、今も大して興味はないんだけども。そういえば、竹谷先輩を最近、委員会で見かけないなぁ。何をしているのだろうか。これじゃあ、一年生たちに示しがつかないのに。まぁ、僕は竹谷先輩じゃないから関係ないんだけど。それよりも、ジュンコを探さないと。また、何処かに行っちゃった。困ったなぁ。いつもの様に、「ジュンコー!」と彼女の名前を呼ぶ。キョロキョロと辺りを見渡していれば、声をかけられた。振り返ると、最近事務員になったばかりの小花衣咲さんが居た。どうしたの?と声をかけられたので、「ジュンコを探してるんです。」と彼女の顔も見ずに答える。どうせ、くのたま達のように「気持ち悪い。」などなんなの言い散らかして、何処かへ行くんだ。そう思っていたのに。事務員さんは、僕の名前を呼んだ。僕は不機嫌になりつつも、彼女へと視線を向ける。そこには、ニコニコと笑っている彼女が居た。ふと、彼女が指を上へと指した。不思議に思いながらも、彼女の言葉に耳を傾けつつ、上へと視線を上げる。そこには、僕が探していたジュンコが居た。ジュンコに出会えたことに、嬉しさを感じつつも、僕は不機嫌に彼女へとお礼を言う。


「ありがとう、ございます…。」

「…ふふっ。どういたしまして!」


それが、僕と事務員さんの最初で最後の会話だった。








「本当は、お礼をしたかったんです。でも、できなかった。どうしてだと思います?ねえ、天女様?」

「し、知らない…っ。」

「…僕も、わかりません。でも、これだけはわかります。小花衣さんは、誰かに殺されたんだってこと。」

「っ。」

「まぁ、僕には関係ないんですけどね?」

「ご、ごめ、」

「あーあー、折角の着物が泥だらけですよ?」

「ごめ、なさ、っ、」

「…お帰りください、天女様。」

僕のその言葉を最後に、天女様は崖から落ちてしまいましたとさ。

「めでたし、めでたし。」



あの時の小花衣さんの笑顔が、目に焼きついて離れないんだ。天女様が落ちていった崖の下を見つめ、僕は雫を零した。
一人目の天女様

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