悪魔の実なんて知らない
レストランバラティエが開店してからいくらか年月が経った。
ゼフさんはおれたちの父親になった。施設にいて父親というものをしらないおれはなんだか新鮮でとてもくすぐったくて、温かかった。
サンジもそれは同じだった様だ。口ではいつものように軽口をたたきながらも口元は緩んでいたからだ。
あとおれはサンジの兄になった。
「ゼフさんが父親ならおれとサンジくんは兄弟だな。お兄ちゃんって呼んで良いぞ」
「誰が呼ぶか!お前なんかミズキで十分だ!!……つーか、兄弟なんだから呼び捨てでいいだろ」
サンジの頬はほんのり赤く色づいていた。おれの弟がかわいい。
★☆
料理長のゼフさんの腕が良いからか店はすぐに繁盛した。
人手が足りなくなって募集の張り紙を出すと個性的なやつばかりが増えた。
海上レストランというのもあって、海賊だって客としてくる。脅したり、店を滅茶苦茶にしようとするやつだっているのでおれとサンジはゼフさんから戦い方を教わった。
それが理由なのかホールのスタッフは雇っても長続きしない。おかげでおれとサンジはよくホールに回される。サンジは女性客にいつもメロメロだ。まったく呆れる。
おれはあのサンジの目がハートになっている姿を思い出して苦笑した。
「よ、…っと」
今日仕入れたフルーツを食糧庫へと持っていく。
規定の位置に置いたとき、ふとひとつだけ別の実が混ざっていたことに気づく。
「なんだこれ…」
表面にぐるぐる模様が入った実だ。
おれはその実に興味を引かれ手に取りしげしげと見つめる。
「形は同じなのになー…なんでこれだけこんな模様が入ってんだろ…」
その不思議な実を観察するのに夢中になっていたおれは背後から近づいてくる人間がいることに気づかなかった。
「ミズキ!今日デザートで使うフルーツって届いたか?!」
「うわあっんぐッ……あー!!飲んじまったー!!」
パティが背後から大声を出したのに驚いた拍子に手に持っていた実を飲み込んでしまった。
畜生なんて事してくれやがったパティ。
「飲んだ?!フルーツをか?!」
「1個だけ変な模様の混ざってたんだよ!それ見てたらお前が後ろから大声出すからっ!」
「……お前それどんな模様だった?」
先程まで騒がしかったのに模様の入ったフルーツの話をしたら急に静かになった。
「どんなって…グルグル模様だけど…」
こんな感じと人差し指をグルグルと動かす。
それをみてパティは血相を変えてプルプルと震え出した。
「なんてこったああああ!!悪魔の実だああああァ!!ミズキが能力者になっちまったあングッ」
「うるせぇよっお客様の迷惑だろ!」
咄嗟におれは自分の手でパティの口を塞いだ。
今は丁度客入りが多いときなのだ。
というか悪魔の実とは?ここ数年の間でこの世界に馴染んできたと思ったが、ここに来て新しいワードが出てきた。
「うるせぇな、何騒いでんだ」
ほら、声を聞き付けてサンジが来た。ジト目だし。
丁度いいから聞いてみるか。
「なあサンジ、悪魔の実って?」
「悪魔の実っつうのは食ったやつに特殊な能力が身につくっていう実だ」
「へーいいじゃん」
「それだけならな。食ったやつは海に嫌われて一生カナヅチだ。海に入った途端に力が抜けて溺れる」
マジか。
それを聞いてパティの方を見る。彼はこくこくと頷いていた。
「つーかパティ離してやれよ」
「ああ、悪い」
おれは押さえていた手を離す。
パティはゼーハーと肩で息をしながら口をパクパクさせていた。
何やってんだ、普通に喋ればいいのに。サンジも不思議そうにしている。
2人で首をかしげながらおれはひとつの考えが浮かぶ。
あれ、これ…
「もしかして、これがおれの能力だったりして」
★☆
正解だった。後日分かったのだが、おれが食べた実はナギナギの実。ナギ…凪ということで音を消せるらしい。パティが口パクしてたのはおれが無意識に能力を使い、パティの音を消したからだった。なんてこった。
なんとか能力を解除したとき、パティはおれがお前を驚かせたばっかりにすまねぇと謝られた。まあうん、なんかもういいよ。おれも無意識とはいえ能力を使っちまったしな。
しかし今後は能力をコントロール出来るようにもならなきゃいけねえのか…
なんだかんだ、手伝うとみんな言ってくれているのでありがたくそうしてもらうことにする。
特にパティの勢いは凄かった。