旅立つ決意

あれからまた数年。
ナギナギの実の能力というのは便利で、音を消すだけでなく音で発生する振動なんかも消えるのだ。おかげで海賊なんかが襲撃してきたときこの力でお客様を守ることができる。
まあここまでにするのには時間はかかったが…。
海上レストランだけあって海賊も海軍も客として見せに来ることがある。
海賊の場合大体強奪とか略奪とか殺されたくなかったら食料寄越せーみたいな奴ばかりだが、ちゃんと金を払って飯を食いにくる奴もいる。
海軍はまあそんな脅しとか当然するわけもないんだがこっちはこっちでタチが悪い。料理に髪の毛だの虫だの入っていたとイチャモンをつけてくる。運んだ時には入っていなかったことは確認しているし明かに向こうが何か仕掛けた物だ。こういうのってどの世界にもあるんだな…。イチャモンをつけるだけならまだしも、食べ物を目の前で粗末にした時に手なり足なり結局相手はボロボロにされるのだ。
これなら海軍も海賊もやり方が違うだけであんま変わんねぇんじゃないかと俺は思う。
店も安定して繁盛しだした頃、俺の視線は海に向くことが多くなっていた。
ここ東の海の他に3つの海、偉大なる航路、それからひとつなぎの大秘宝。サンジが言っていたオールブルー。人魚に巨人にエトセトラ。とっても興味があることばかりなのだ。
正直なところ、行ってみたい。見てみたい。この世界の全てを見てみたい。
元々旅好きで色んな所に行くのが好きだったのだ。この世界は興味を引くものが多すぎる。
けれど、バラティエがある。経理係を任されてしまったし、それにここまでゼフさんには俺を拾ってここまで育ててくれた恩もある。おれが店から離れるわけにはいかないのだ。

★☆

「行きゃあいいじゃねえか」
「え」

休憩時間、海を眺めていたらゼフさんに言われたのだ。
おれと同じように海をみながらゼフさんは続ける。

「この先人生長いんだ。こんな所にいつまでも居るこたあねぇ」

行きたきゃ行けばいい。
突き放すような言い方ではない。本当におれを思ってのことだろう。
けれどそう言われてはい行きますとはならなかった。

「けど、お店だってあるし…おれ、まだあんたに恩を返せてない」
「おれとしちゃあ、あんなの恩に感じることでもないんだがな。人手が欲しかっただけだ。
店のことも心配しなくていい。サンジもいるし経理もお前の弟子でなんとかなるだろう」

チビナスじゃああるがな、なんて特徴のある髭を揺らしながら言うのだ。昔はリボンで結んでいただけだった髭はいつの間にか三つ編みになっていた。
コックやウェイターだけでなく店のお金の管理を任されるようになってしばらく、その姿を見ていたのだろうか教えて欲しいというやつが出てきた。意欲があるのならいいかと、ここ最近はそいつとおれ料理長のゼフさん、副料理長のサンジと話し合うこともしばしば。
そりゃまあ、きちんと引き継げばあいつでもいけるだろうとは思う。それはそれでなんだが寂しいけれど。

「やめたくなったら帰って来りゃいい。それとも出てったらそれっきり帰ってこねえつもりか?」

その言葉でおれはハッとした。いいのか帰ってきても。
ここを、バラティエをおれの帰る場所としてもいいのか。ゼフさんの言葉は出ていったらそれっきりだと思っていたおれのなにかを軽くした。

「ゼフさん」
「なんだ」
「おれ、行くね」
「ああ、どこへでも行きゃいい」

この時のおれはここの他に帰る場所ができるだなんて思ってもいなかったのだ。


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