雨声



"私の声を聞きなさい。"


ヒプノシスマイク。

言葉を精神に作用せる科学の結晶であり、平和の象徴。純正のものは徹底的に管理され、違法なマイクは取り締まられているとは言え完璧ではない。しかもそれを男に与えているのだ。政府もマイクによる叛逆を考えてないはずがない。

ならばマイクそのものをどうにかするしかない。より良いマイクの開発、ヒプノシスキャンセラーの開発、あらゆる開発にはサンプルが必要だ。

マイクの音による精神への作用はどんなものか、もちろん人体を使う。


「私は政府直轄の研究所でヒプノシスマイクを研究、開発してるんです。」


どんな言葉が刺さるのか、ヒプノシスマイクの限界…他にも色んな事を実際に試している。人間を使って。

精神崩壊させた人数は数知れず、公にはしていないがもちろん死者もいる。それでも止めない。犠牲になってるのは罪を犯した死を待つ男なのだから。構わないのだ。


「皆必ず私を見て助けてくれっていうけれど」
「その度に私は目を逸らして殺してきた。」


外に出れないのは、その秘密を守るためだ。そんなことをしている人間がいること…いや、そんな機関があることすらあってはならない。人数は必要最低限、人材はいずれも中王区出身で専用の教育を受けた人間ばかり。つまり、その為に作られた人間なのだ。

"あるべきではない"彼女達には中王区によって与えられる実質的な権力こそあれど人権はない。中王区では都市伝説のような職業であるが、存在がバレれば政府の威厳が危ぶまれる ような職業である。存在を知るのは政府の限られた人間のみ。

雨の日だけは自由に動き回れるのは、レインコートや傘で顔を隠せるから。晴れの日に外に出れるのは月に1度、さらには中王区以外の各ディビジョンだけ。日の昇る前に中王区を出立し、日が落ちた頃に帰る。中王区の住民に知られてはいけない、人目についてはいけない。それが彼女の仕事だった。


「武器はなくなっても殺しはなくならない。」
「違う…」
「貴方は優しくて綺麗な人だから…私みたいな人殺しと話すなんて、勿体ない…」
「違う!」
「最初は嫌いだった。男なんてって思ってた…でも、貴方と話すうちにだんだんわかって…」
「紫陽花さん、」
「こんな綺麗な人と一緒にいる資格なんて私には…」
「それは、誰かが決めることじゃない。」
「…伊弉冉さん……」
「君と僕が一緒にいたいと思うなら、それを非難する資格こそ誰にもない。」


君にもね。

一二三の声が紫陽花の頭のなかでこだました。