「どこ…どこに行けば…」
真っ昼間のシンジュク。
雨の日だったなら行く場所は決まってる。でも、生憎今は太陽が照り付ける快晴の日。一二三の家に行けば良いのかと思ったけれど、あの日の記憶は薄れていてとてもじゃないけど思い出せない。お店に行ったところで会えないだろう。連絡先すら知らない。
紫陽花は伊弉冉一二三のことを何も知らなかったのかもしれない。
「…それでよく、」
会いたいなんて思えたものだ。
ははっと乾いた笑いがシンジュクの喧騒にかきけされる。とぼとぼとあてもなく歩く紫陽花には誰も見向きもしない。どこに行けばいいかなんてわからないけど、紫陽花が知ってる一二三との場所なんてのは一つしかない。会えないだろう、そんなことはわかってても。あの公園しか一二三との繋がりはなかった。
「おやつでも買おうかな。」
背中を押してくれた友人への手土産も兼ねて。ピタッと足を止め、例の洋菓子店の方向へ向きを変える。公園しかないと思っていたけれど、あそこもある意味では一二三との繋がりかもしれない。そんな少しの期待を抱きながら一歩を踏み出した。
「…あの。」
「私、ですか?」
***
「んんーっ!今日もいい天気だなぁ。」
あの日以降雨が降っていない。
雨が降ると気分は落ちるし、洗濯物も干せないし、髪のセットも思うように行かない。同居している幼馴染みのテンションもいつもの一割増で下がるし良いことなんてなかった。
それでもたったひとつ。"雨の日には公園に彼女が来る"、それだけで気分が落ちる雨の日な楽しみになっていた。毎日なんて贅沢なことは言わない。せめて週に一回でも雨が降ってくれたなら、こんな寂しい思いはしないかもしれないのに。
「…電話?」
自分の分と同居人である幼馴染みの分の掛け布団を干して、ベランダから室内に戻ると、テーブルの上のスマホがブルブルと震えていた。
職場の後輩の名前が表示された画面を確認して通話ボタンを押すとまず第一声が良かった!という言葉だった。良かったと言っているわりには良くなさそうな声色だったけれど。
「なになにーどったの?そんな慌ててさ。」
「あの、前にきた先輩のお友達の…!紫陽花さん…?でしたっけ!」
「紫陽花ちゃんがどうかした?」
「先輩のお客さんであのヤバい感じの子いたじゃないですか!その子に声をかけられてるのをたまたま見かけて…」
こんな晴れの日にどうして彼女の名前が出るのだろう。月に一度の晴れの日の外出はこの間のヒプノシスマイクの時に使われているはずだ。
「それで?」
「見た感じ険悪な雰囲気でもない感じだったんでその時はスルーしちゃったんすけど、あの子ヤバいの思い出してだんだん不安になってきて…」
「そっか。ありがと!ちょっと連絡してみるわ!あ、でも念のためどの辺りで見たか教えてくんね?」
「はい!」
嫌な予感がする。
あの態度は自分が男だったからなのか、それとも人に対しては基本的にそうなのか。後者だったら子猫ちゃんとの相性がかなり悪い気がする。連絡するとは言ったものの、彼女の連絡先なんて知らない。まだそこにいるかなんてわからない。案の定、子猫ちゃんには何度電話をかけても繋がらない。
「紫陽花ちゃん…」
あの子はやばい子だ。特に、あの素の一二三で会ったあとから様子がおかしい。一二三への執着が前より増したように思える。妹さんは元気?なんて笑顔で聞いてくる。ああ、やっぱりどう考えてもヤバい。
頼むから…
「無事でいてくれ…!」