あの日からとんとん拍子で話は進んでゆき、とうとう嫁入りと祝言が終わった。
真田幸村はとても優しく、かなり気遣ってくれる方で、一緒に居る時はとても暮らしやすい。
が、私の嫁入りが比較的遅かったせいもあり、真田幸村付きの忍に大変いびられる毎日を過ごしていた。

「名前サマ、行き遅れのあんたは分かんないかもしれないけど、こういう勝手なことされると困るんだけど」
「…文くらい、良いでしょう」
「だーめ。いつ裏切られるか分かんないしね」
「文の内容を確認してもらっても構いません、父に報告をさせてください」
「報告って何?俺様にいじめられてます、とか?」
「父が寂しがるので、その日行ったことを報告するだけです」

ムカつく男だと、心底思う。
どうして真田幸村はあんなに素敵な殿方なのに、この忍は…そこまで頭の中で紡いで、ハッとする。

真田幸村が、素敵な殿方。

私の中にはまだ家康がいる。忘れたくても決して忘れることのできない、大きな存在。
全てを包み、照らしてくれる明るい太陽のような男、それが私の好いた男だ。

「ちょっと、話聞いてる?」
「聞いてないですし聞きたくないです」
「…あっそ」

真田幸村と再会したあの日から、思い返してみれば、家康のことを考える頻度はぐんと減った気がする。
その分、真田幸村のことをたくさん考えるようになった。

もしかしたら、私は。

「名前殿!」
「大将、おかえり」
「佐助、何故お前がここに居る」
「名前サマが文を書いてたから。こっちの話が筒抜けで裏切られるかもしれないでしょ?」
「名前殿はそのようなことをされる方ではない。佐助、下がれ」

悪い男ではない。むしろ信頼している男なのだが…、と、自分の部下の忠義心の厚さに苦笑いを浮かべている。
この人はこんな顔もするのか。
近頃の私は、知らなかった一面を垣間見ることを、嬉しいとすら感じるようになってきた。

「私のことは気になさらないでください」
「そうはいかぬ!名前殿は某の一番大切な方だ」
「…私、も」
「ん?どうされましたか?」
「幸村様のこと、少し気になり始めてます」

くりくりとした大きな目を更に見開き、後ろで結んでいる尻尾のような髪の毛が揺れているように見えた。
そして、私の体温は急上昇する。

「名前殿に意識していただけるよう、これからも精進致しまする!」

破廉恥が口癖の男が、嬉しさのあまり私を抱きしめていた。

「幸村様、苦しゅうございます」

私の心はすでに、真田幸村に傾きつつあるのかもしれない。