心が真田幸村に傾き始めてから随分と経った。
私は、私のこれまでの全てを真田幸村に知って欲しいとすら感じるようになり、何をトチ狂ったのか、過去に好いていたのが家康だったことを告白した。
豊臣にとって、真田にとっての憎き敵である男に想いを寄せていた愚かな女。そんな私を、佐助は前よりも嫌っているようだ。
が、誰よりも暑苦しいこの男は、やはり私の想像の範疇を飛び越えた発言をしてくる。

「それは過去のことでござろう?なんら問題はありませぬ」

幸村様は、目を見開いて固まっている私の手を取り、こう続けた。

「某は名前殿とのこれからの話をもっとたくさんしたいでござる」

この方には一生勝てる気がしない、つくづくそう感じた。


それから数ヶ月経ったある日のことだった。

「真田の大将、染谷台に陣を張ってるやつらがいる」
「どこの兵だ」
「徳川勢だよ、ざっと見た感じ兵の数は3万を優に超える数だったけど、どうする?」

上田にて、戦が始まるようだった。

「関ヶ原での石田殿の動き次第だな、どうなっている」
「すぐに確認させにいく」

私はこの城にやってきてから、まだ戦らしい戦を見たことがなかった。
よく見かけるのは、奥州の伊達政宗と幸村様が、城の開けた場所にて殴り愛…のようなものをしているところだけ。戦ではないが、ほとんど戦のようなものだ。
籠城になるのだろうか、はたまた噂に聞く神川合戦のように策を弄するのだろうか。
父上や半兵衛様がよく仰っていた、真田家の策を見られることを、不謹慎ながら少し楽しみにしている私が居る。

しかし、誰も予想出来なかったことが起きてしまう。

「失礼致す!幸村様!」
「どうした」

あの男が。

「徳川家康が、幸村様と話したいことがあると…」

やってくることになったからだ。