青春の切れ端


 ばたん!と大きな音と主に夏油の部屋の扉が開け放たれる。
 今にも壊れそうな開け方をした五条は、不機嫌そうな、不安そうな顔で此方を睨み付けていた。
「悟、もう少し静かに開けられないのか」
「……てた」
「話、聞いてるのか?」
「千寿が!服着てた!!」
「何を当然のことを言ってるんだ、彼女が全裸でいたことがむしろあったのか?」
「違う!めちゃくちゃ気合い入ってて……男とデートするみたいな服着てたんだよ!!」
 知るか、と一蹴したくなるものの、追い返すのは不可能だろうと早々に諦め夏油は詳しく話を聞き出した。
「硝子と出かけるんじゃないのか、真玉のこと気に入ってるだろう、硝子も」
「硝子ならさっき煙草吸ってた」
「君、まさか確認してきたのか」
「あんな格好見たことねえのに……どこのどいつだ、ていうか何処で知り合ってんだよ油断した、くそ、腹立つ」
 付き合ってもいない、むしろ一度振られているのにと喉まで出かかった言葉を飲み込んで、夏油は落ち着かせようと試みる。
「まあ彼女だって年頃の女の子なんだから、たまには着飾って出かけたい時もあるんじゃないのか」
「……追うか」
「はあ?」
「じっとしてるとか無理だろ、今から急いで追いかけて確認する」
「もし本当にデートだったらどうするんだ、悟」
 呆れたようにそう問いかければ、今日一番の笑顔で五条は答えた。
「邪魔するに決まってんだろ?」


「だからってなんで私まで……」
「暇だろ硝子」
「お前の面倒くさい用事に付き合ってるほど暇じゃない」
「煙草代三ヶ月」
「面白そうだしまあいいけど」
 ころりと態度を変える家入に苦笑しながら、同じく付き合わされた夏油はさり気なく千寿の居場所を本人に探ってみる。
「真玉、今この駅にいるらしいよ」
「あ、ここの駅って事はテーマパーク?ホントに彼氏だったりして」
「はあー?巫山戯んなよあいつは俺のだぞ」
 それは違う、と二人が胸中で同じ事を思うものの口には出さずに視線を合わせながら、物騒なことをぶつぶつと呟く五条の後ろをついていく。
「だいたい千寿も千寿だよな、俺の前じゃあんな格好したことねえの、あーむかつく」
「そりゃお前と会うときは制服だからだろ、私はたまに私服で会うけど」
「今度写真送れよ。つうか千寿にはもっとこう……似合うのがあるだろ、あの格好男の趣味か?センスねえな。俺の方がもっと似合うモン買ってやるのに」
「悟はまず真玉と付き合ってない現実を見た方が良いと思うけどね」
「うるせえな!これから結婚すんだよ!」
「付き合って、って言ったつもりなんだが」
 適当な会話を交わしながら、きょろきょろとテーマパーク内にたどり着けば千寿の姿を探していく。
「人多いし、これ見つかるの?」
「見つけるまで悟は満足しないだろ」
「この中にいたらの話なのに」
「言ってやるな硝子」
「──あれ?先輩達、何してるんですかこんな所で」
 聞き覚えのある声に振り返れば、そこには私服姿の後輩、灰原が不思議そうに此方を見つめていた。
「灰原こそ、どうしたんだ」
「僕は七海と真玉と来ましたよ!!」
「え」
 予想外の言葉に三人でぽかんとしていれば、後ろから更に見知った顔が歩いてくる。
「正直何故ここにいるのか聞きたくないんですが」
「七海オマエ三人で仲良くこんなテーマパーク来るような奴だったか?それとも何だ?オマエまさか千寿のこと」
「変な誤解をしないで下さい面倒くさいです。だいたい、遊びに来たわけじゃないので」
 今にも殴りかかりそうな五条を夏油が押さえつけながら、家入は二人に更に問いかける。
「遊びに来たわけじゃない?でも任務って訳でもなさそうだな」
「任務というか、頼まれごとですかね」
「で、その千寿は?見ての通り五条があんな状態だからさ」
「今、少し先のベンチに座ってますよ。灰原、飲み物は?」
「あ!!今から買ってくる!!」

 七海の案内でベンチの方へと歩いて行けば、千寿は何かを抱えて座り込んでいた。
「あ、さとる」
「……あ?」
 ちょこん、と千寿の膝に乗せられていたのはパンダであり、あどけない顔でじっと全員の顔を見つめている。
「あ、あれ?先輩達どうしたんですか」
「オマエこそ、何やってんの」
「実は、夜蛾先生に頼まれて」
「彼がここに行きたいと言ったらしく、出来れば連れて行って欲しいと私達に頼んできたんですよ」
「ああ、成る程。だから三人で来たのか」
「女性の真玉がぬいぐるみとして抱えるのは違和感ないですが、流石に一人だと大変だったので」
「……はあー、なんだよ、それ」
 へなへなとその場にしゃがみ込む五条に、パンダとともに不思議そうに千寿は首を傾げた。
「さとるポップコーンいる?」
「いらねー……オマエが食えよ……」
「まあ、良かったじゃないか悟」
「じゃあついでに私達も遊んでこうよ、せっかくだし。五条の奢りで」
「いいねそれ」
「まさみちにお土産かう?」
「ふふ、そうだね。先生にもお土産買ってあげようね」
「おーい、飲み物買って来ました!!」
 合流した灰原を含めて、その日は全員で遊び倒した。



- 9 -

*前次#


ページ:

もくじ