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 新幹線でおよそ数時間。目的地にたどり着けば、千寿は端末を開いて今回の任務の確認をする。
「ここ最近で広まり始めている噂の調査、及び呪霊が原因だった場合対処に当たること、でしたよね」
「千寿、ここの温泉饅頭美味しいんだって。後で買おうね」
「……あの、ちゃんと聞いてますか?五条さん」
 上機嫌で全く関係のない話をする五条に、困った顔をして聞き返せばにこにこと五条は口角を上げる。
「えー?そんな話よりさ、とりあえず宿向かおうよ」
「一番大事な話ですよ?」
「一番大事なのはこれから千寿とお泊まりすることだよ、それ昨日片付けてあるし」
 さらりと答えた五条の言葉に、ぴたりと千寿は動きを止めた。
「……すみません、今なんて」
「だから、昨日僕が片付けてあるから気にしなくていいの」
「ええと、昨日?予定は今日から調査ですよ、いい加減なこと言わないで下さい」
「本当だよ。だって千寿のその予定、僕が教えた嘘だから」
 目的地到着直後、平然とそう暴露した五条。
 数分の沈黙。千寿はくるりと駅へ足を向け直す。
「東京に帰ります」
「ほらあー千寿そうやって帰ろうとする。駄目だよ折角今日から一緒に旅行するつもりなんだから」
「そ、そんな事の為にわざわざ嘘の予定で騙したんですか?」
「だって普通に誘っても断るでしょ」
「人手不足なのは一番五条さんが分かってますよね!?そうなると明日以降の仕事にだって影響出てくるんですよ」
「ちゃんと調整してあるから問題ないよ。伊地知にも言ってあるし」
 譲らない様子の五条の態度にはあ、と深いため息を零す。どうしたものかと相手の納得する理由を考えていれば、五条は更に畳み掛ける。
「いーじゃん一日!一泊二日でいいから!本当はもっと欲しいけど我慢するから!こうでもしなきゃ千寿と旅行なんて来れないんだよ!?」
「だからって、もう……どうしてまず騙して連れて来ようとするんですか。ちゃんと相談して下さい」
「そんなの待ってたらいつになるか分からないじゃん、千寿いっつも仕事の方が優先でしょ?中止にされたら僕もう仕事のやる気なくすよ」
「それはそれで困ります」
「ね?もう来ちゃったものは仕方ないんだしさ、とりあえず楽しもうよ」
「あ、ちょっと五条さん!」
 ばっ、と千寿の荷物を奪い取り、片手を掴んで強行しだした五条に千寿は困惑したまま引っ張られていく。
「そういえば千寿さ、今何の本読んでたっけ」
「え?今は……中編のミステリー小説ですけど……今、関係ないですよね?」
 答えを聞いた五条は、にやにやと楽しげな顔を千寿に近付けた。
「泊まる予定の宿、その話のモデルになった場所らしいよ?」
「すごい、この間取りなら確かにトリックに使えるかも……」
「うーん、言うタイミング間違えたかなあ」
 きらきらと部屋を見渡す千寿を腰掛けて眺めながら、一切此方を見ない素振りに何処か拗ねたような顔を五条は浮かべた。
「ねえ千寿?部屋気に入ってくれたのは良いんだけどさ、そろそろ外とか回ろうよ」
「……そ、そう、ですね」
 ハッとした顔で五条の方を向けば、段々と顔を赤くしていきながら千寿は小さく頷いた。
 珍しい表情にくつくつと笑って機嫌を良くすれば、きゅっと千寿の手を引いてゆったりと歩き出す。
「さっきまで帰ろうとしてたのに、楽しそうだね?」
「誰のせいだと思ってるんですか、もう」
「まあずっと不機嫌でいられるよりはマシかな。こういうのは楽しんだもん勝ちだよ」
 元凶が何を言っているのか、と言いたげに五条を見つめながらもその通りかもしれないと半ば諦めて、千寿は連れられるまま観光を楽しむことにした。
 食べ歩きをしたり、観光地を巡り、せめて高専の皆に良いお土産でも買って帰ろうと軒先に並ぶ土産をゆっくりと見て回る。そうしていればあっという間に日は落ちていった。
 旅館に戻れば部屋に備え付けられた小さな露天風呂に五条は満足げにしながら、浴衣姿の千寿を抱きしめてのんびりと寛いだ。
「ねえ、今度はさ、もっと長く旅行しようよ。千寿が行きたい所も行こう」
「また仕事と偽らないできちんと相談してくれるなら、考えます」
「うん、約束」
「……もうそんな風に勝手に話を進めなくても、私、悟さんが本当にしたい事ならちゃんと話聞きますからね」
 ぽつりと告げた千寿の言葉に、ぴたりと五条の動きが止まる。きょとんとして顔を見上げれば、その青い瞳が揺れていた。
「……馬鹿だなあ。そんなこと言ったら、僕、調子乗るよ」
「なんの相談も報告もなくされる方が、なんだか信用されてないみたいで嫌です」
「だって、千寿すぐ断ってくるからさあ、この方が早いんだもん」
「本気かどうかわからないですし、何が目的なの分からないのに、二つ返事で了承はしかねますよ、普通」
「……じゃあ、例えば。例えばだからね?僕がお揃いのものが欲しいって言ったら?」
 回された腕の力が微かに強まっていきながら、五条は小さくそう問いかける。
暫しの沈黙の後、千寿は五条の問いに返した。
「仕事に支障が出ないようなものであれば構いませんよ。あとは……そうですね、あまり高価でないものでお願いします」
「……いいの?」
「え?はい、構いませんけど……悟さんはてっきりそういうの、嫌いかと」
「千寿とだからしたいんだよ、当たり前でしょ」
「そう、ですか?」
「そうなの!……そう、いいんだ。そっか」
 こつりと五条が頭を下げれば、千寿の肩へ押し付ける。嬉しそうに頬を緩ませながら、そっと千寿の手を取って撫でていく。
「そっかあ、何にしよう。アクセサリーもいいけど……毎日付けて欲しいしなあ」
「え、あの、例え話だったんじゃ」
「やっぱり嫌?」
「……嫌じゃないですよ」
「じゃあお揃い、しようよ」
「あ、わ、わかりました」
 頷く千寿ににっこりと笑みを浮かべては、何にしようかと五条は候補を巡らせていった。

 ──数日後。千寿の腕には見慣れぬ腕時計が巻かれていて、釘崎が目ざとく指摘していた。



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