「ちょっとちょっと、僕のこと除け者にするなんて酷くない?」
「下戸はお呼びじゃないんだが」
「あれ、五条さん?こんな所でどうしたんですか」
ひっそりと賑わう居酒屋の中、ずかずかと席に近寄った男に怪訝そうな顔をした家入と千寿は、男が五条だと気付いて驚いたように見上げる。
「誘って貰えなかったから勝手に来ちゃった」
「そりゃあ……五条さん、お酒飲まないじゃないですか」
「えー、酷いなあそういうの。飲めないからって仲間はずれは良くないんじゃない?」
「えと、す、すみません……?」
「流されてるぞ千寿」
我が物顔でどかりと五条は千寿の隣へ腰掛ける。テーブルに置かれた注文機に手を伸ばし、好き勝手に弄り始めた。
「次はちゃんと僕にも声掛けてよねー?二人は?何か頼むの?」
「ええと、じゃあカクテルで……」
「私は日本酒」
「硝子は知ってるけど、千寿も結構強いの?僕の前じゃ飲まないよね」
「五条さんだって飲まないですし、仕事に影響しますから」
「ま、補助監督やってるし、千寿の性格じゃ仕事の付き合いくらいしか飲まないか」
「千寿は明日休みだったよな?折角なら羽目外したらどうだ」
「もう、硝子先輩まで……」
困ったように笑いながら、三人になった酒の席はそのままのんびりと続いていった。
「千寿、大丈夫か」
「へーきです……ちょっと、ねむ……」
「まだ時間あるから少し寝てもいいぞ」
「しゅみませ…しょーこせんぱ……」
「──それで?いきなり乱入してきて恋人を酔い潰して満足したか、五条」
「僕のせいみたいに聞こえるんだけど?硝子」
「他に誰が居る?」
数時間後。五条の横にはふらふらと覚束ない様子で座っている千寿と、それを楽しげに撮影する五条の姿に家入は呆れたように頬杖をついた。
「散々水だって嘘ついて酒飲ませたのは誰だ?」
「いいじゃん別にさあ。彼氏としては心配だし、千寿がどれくらいで潰れちゃうか確認しときたいだけだよ」
「そのまま送り狼になる気しかしないんだが」
「あはは、しないしない!硝子僕のことそんな酷い男だと思ってんの?」
「実際問題クズだろう、お前」
けらけらと楽しげに笑いながら、五条はそっと千寿の頭を撫でていく。
「そんなこと千寿にはしないよ。起きた時さっさと帰られて、無かったことにされないようにせめて同棲するようになってからじゃないと。逃げ道は潰しとかないとね」
「もう何度も断られてるんだろ」
「想定内だよ、どうせ断るって分かってて別のお願い聞いて貰ってるからいいの!待つのはもう慣れちゃったし」
「むう……」
ふにふにと千寿の頬を引っ張りながら笑う五条に、家入はため息を吐き続けながら同情の眼差しを向ける。
「それにしても、よくここが分かったな?私の思いつきだし他の奴は声もかけてないはずなんだけど」
「……それ、本当に聞きたい?」
隣で酩酊している千寿を愛でていた五条はぴたりと手を止め家入へ視線を向け直す。
徐に下ろされた目隠しの向こうから、蒼い瞳が射殺すように家入を見つめている。
「……いや、やめておく。丸くなったと思ったのは勘違いだったみたいだ」
かたん、と家入は席から立ち上がり、車を呼んで来るとその場を去っていく。
残された五条はくるりと表情を和らげ千寿の方に向き直る。
いつの間にかテーブルに突っ伏していた千寿は、頭を五条の方へ向け静かに視線をこちらに向けていた。
「どーしたの千寿?眠い?眠いなら寝てもいいよ、今硝子が車呼んでくれるってさ」
「んん……さとるさ、ん?」
「酔ってるねぇ、二人きりの家の中くらいしか名前で呼んでくれないのに。千寿のかっこいい悟くんはここですよ〜」
にこにこと顔を近づければ、きょとんと丸い瞳が至近距離で映る。かと思えば、ひたりと熱を帯びた千寿の手は五条の頬に添えられた。
「どうしたの、千寿」
「んふふ、さとるしゃんのめ、きれー、です…」
「そりゃあどーも。欲しいならあげようか?」
「いらない……さとるさんの目だから、きれーなの……」
ふにゃりと力なく笑う千寿に五条の動きが止まる。ぎゅ、と抱え上げて抱き締めれば小さくため息を吐いた。
「酔っ払いって、ほんと、恐ろしいなあ……じゃあ何?僕の目が真っ黒でも綺麗ってこと?」
問いかけに返事はなく、首を傾げながら千寿の顔を覗き込む。
「……寝てるし……もー、最後まで答えてから寝てよ、千寿は狡いなあ」
「……ん」
すやすやと小さく寝息を立てる千寿の頬に口付けながら、恍惚とした表情で寝顔を眺める。
「素面でそういう事言ってくれないと困るんだよなぁ……ね、早くここまで落ちておいで」
首筋へひとつ、朱に染まる印を残して五条は満足そうに笑みを浮かべた。
「いい加減、僕が欲しいって欲張れよ」