ゆっくりと目を覚ませば、千寿はのろのろとした動きで布団から起き上がった。
慌ただしかった日々もようやく以前の日常へ戻りはじめた頃。何ヶ月振りかの休日にアラームも付けずについ眠り込んでしまった。
洗面所で顔を洗いながら、もう昼食に差し掛かる時間に何を食べようかと思いながらリビングへ入れば、視界には大きな男が一人。
「あ、おはよー千寿。今日は随分ねぼすけだね」
「…悟さん、おはようございます」
渡した合鍵で入って来たであろう五条は、リビングの椅子に腰掛け寛いでいる。
「久々のお休みで気が抜けちゃった?もうすぐお昼だよ」
「そうですね。朝も食べてないですし、これから作ろうかと」
「じゃあ僕も食べてないからついでに作って欲しいなあ、なんて」
未だ少し寝惚けたような顔でじっと五条を見つめていた千寿は、そのまま台所に向かいながらぽつりと一言答えた。
「食べるなら、散らかってるお菓子とか片付けて下さいね」
「え、あ、うん」
千寿の言葉に拍子抜けしながら、言われた通り五条はとりあえずテーブルに広げた自分の菓子を片付けた。
二人で昼食を終えれば千寿は手を付けていなかった小説をぱらぱらと捲って静かに読書を始める。その隣に陣取った五条はじっとその様子を見つめていた。
「ちょっとさあ、久々の休みなのに彼氏のこと放置するのはどうかと思うな」
「連絡もしないで来たのは悟さんじゃないですか」
「いーじゃん、いつもの事だし。可愛い彼女と一緒に居たいのは当然でしょ?千寿だって僕が居なかったら寂しいんじゃないの」
ぎゅう、と自分の膝の上へ乗せて抱き締めながら、五条は不満そうに言葉を続ける。
「やっぱりさ、そろそろ一緒に暮らそうよ。何かあった時に色々と不便でしょ?」
「……そう、ですね。いいですよ」
「もー、すぐ千寿はそうやって嫌ですって言うんだから、いい加減僕と一緒になる気になっ……え、今、なんて」
「同居しても良いと言いましたけど」
ぽかんとした顔で聞き返す五条に、千寿はもう一度了承の言葉を告げた。
「……いいの?本当に?」
「な、何ですか…やっぱり冗談だったんですか?」
「いやいや、違うから!本気だから!」
慌てて否定して勢い良く首を横に振りながら、五条は思わず千寿の肩を掴んでじっと見つめる。
「だって、今まで何回言っても嫌だって答えるから……え、本当に?いいの?僕と一緒に暮らしてくれるの?」
「そんなに何度も確認しなくても……良いですよ」
「……じゃあこれから千寿と朝から夜までずっと一緒に居られるんだ、嬉しいな」
「いえ、仕事があるのでそれはちょっと」
「もー、すぐ雰囲気壊さないでよ!念願叶って僕は嬉しいの!」
ぎゅう、と包むように抱き締めながら拗ねる五条にくすりと笑みを零しながら、千寿はそっと五条へ身体を傾けた。
「お待たせして、すみません」
「ほんとだよ、告白の返事より待った気がするなあ……急にその気になってくれたけど、もしかして千寿も寂しくなっちゃった?ごめんね一人にして」
ふと思い出したようにそう告げる五条に、千寿は思わず顔を埋めるように押し付ける。
「……そういうわけじゃ、ない、です」
「……ふーん?じゃあどういうわけなの」
「悟さんは知らないかもしれないですけど、冷蔵庫の中身、全部処分したの私ですからね」
「えっ、あの限定取り寄せスイーツ全部食べちゃったの?」
「殆ど賞味期限切れで捨てました。勿体無かったですし、掃除とか、そういうの…色々、いっその事住居が一緒なら楽かと…思って…」
ほんのりと耳を赤くしながら、段々と歯切れ悪くなる千寿の言葉にくすくすと笑えば、五条は乱雑に頭を撫でて再び千寿を抱き締める。
「うんうん、色々考えてくれたんだね。千寿らしいね」
「で、でも悟さんもちゃんと家事とかして下さいね」
「分かってるよ、なんなら全部僕に任せてくれたっていいけど?」
「それはちょっと」
「え、酷くない?まあ…とりあえず、次の休みは忙しくなるからね、今日はいっぱい休んでおくといいよ」
抱き締めた腕の中で頷く千寿の様子を上から見つめながら、五条はうっとりと目を細めて笑みを深くした。
「……あと少しかな」
「え、すみません、何ですか?」
「んー?やっぱり部屋は一緒がいいかなーって!」
「それは嫌です…」
「何で?」