「千寿ー、この子が前に話してた乙骨憂太くん」
乙骨がそう紹介された目の前には、穏やかな表情を向ける五条と同じ歳くらいの女性。
「彼女は真玉千寿、ここの資料室の管理とかしてるから調べ物があったら聞くといいよ」
「は、初めまして、よろしくお願いします!」
「こちらこそ初めまして、乙骨くんの役に立てるか分からないけど、困ったことがあったら何でも言ってね。特に五条先輩の事については」
「え、酷くない?千寿」
拗ねたような反応を返す五条を見ながら、不思議そうに乙骨は首を傾げる。
「先輩……?」
「あ、ええと、私達ここの卒業生なんだけど、私は五条先輩のひとつ下なんだよ」
「そうなんですね」
「もー、卒業したんだから先輩とかやめてって言ってるのにさあ」
「そう言いますけど五条先生って呼んでも不満そうですし…」
仲が良いのだろう、と乙骨は二人のやり取りをぼんやりと見つめていた。
「いや千寿は悟の被害者だろ」
「被害者だなあ」
「しゃけしゃけ」
「えぇ……?」
教室に戻り、先程のやり取りを三人に聞かせて返ってきた言葉は口を揃えて同じものだった。
「で、でも凄く仲良さそうに見えたんだけど」
「言っとくけど、千寿をあんな所で働かせてんのは悟の差し金だからな、ほんとめんどくせぇ奴」
「まあ本人は前線向きじゃないし、階級も上の方じゃないしな……」
「えっ!?先生の差し金って!?」
思ってもみなかった話が飛び交えば、ますます首を傾げる乙骨に真希は呆れたように説明した。
「悟が千寿に惚れてんの。で、周り巻き込んであんな所で働くように推奨したんだよ、酷い話だろ?」
「めんたいこ!」
「え、えーっ…!?」
「元々千寿は本の虫みたいな所あったし、別に気にしてないみたいだけどさ」
「そうなんだ…」
意外な側面を聞きながら、何か意味があるのだろうかと首を傾げつつ乙骨は調べ物があればまた寄ろう、とぼんやりと考えた。
数日後、再び資料室へと足を運べば千寿が優しく出迎える。
「こんにちは、乙骨君」
「こ、こんにちは……」
「ふふ、普段あんまり人が来ないから嬉しいね。何が知りたいのかな」
「えっと、呪力の事で──」
五条の説明通り、千寿は知りたかった内容を記した書籍や記事を次から次へと出してくれた。
「持ち出すときはここに記入して、雑誌はコピーなら渡せるからね」
「こんなにいっぱい…ありがとうございます」
「どういたしまして、私はこれくらいしかお手伝い出来ないから」
そう答える千寿に、ふと先日の同級生達の会話を思い出して何となく問いかけてみる。
「あの、真玉さんがここの管理をしてるのって…?」
「もしかして私も術師だった話、聞いたかな?」
「すみません、この前真希さん達に」
「そっかあ、まあ隠してるわけじゃ無いから…私ね、あんまり戦闘向きではなくて。卒業後の進路に悩んでたら夜蛾先生…あ、今は学長だね。資料室の管理をしてくれないかって言われて」
千寿の説明に、ふと違和感が生じる。学長に管理を頼まれた、と。けれどもこの前の話では五条の差し金だと聞いていた乙骨は思わず言葉を続けた。
「あれ?でも皆はここに居るのは……」
「お、憂太は早速調べ物?真面目だねえ」
乙骨の言葉を遮るように、資料室にいつの間にか入って来た五条は笑いながらバシバシと背中を叩く。
「うわっ、せ、先生も調べ物ですか?」
「いや?憂太を呼びに来ただけ。真希が来ないってめちゃめちゃ怒ってたよー?」
「あっ!そ、そうだった!すみません、失礼します!」
手合わせの時刻を過ぎていたことにハッとしては挨拶もそこそこに慌てて資料室を飛び出した。
「あはは、元気そうで何より!そういえば……さっきは何を憂太と話してたの?」
楽しげな笑みを浮かべながら乙骨が走り去るのを見送れば、五条は腕を組んで千寿に向き直る。
「私が呪術師なのに資料室の管理をしてる話ですよ」
「ああ、学長に頼まれたって話?憂太にとっては分からないことだらけだろうからね、気にもなっちゃうか」
「でも何か、それだけではなさそうな感じがしたような…?」
「パンダ達に面白半分にあることない事吹き込まれてるんでしょ、憂太って素直でからかいがいがあるから」
「……そういうの良くないと思います」
「僕は至って真剣に生徒と向き合ってるよ!からかうなんてとんでもない!」
「一番信用ならない言葉じゃないですか」
「うっ……こんなに献身的なのに千寿が酷い…」
ぐだぐだと文句を告げながら泣くふりをする五条を、千寿は呆れたように見つめながら資料を元の棚に戻していった。