人生とは奇なり


「五条先輩って、御三家…の、五条家の人なんですよね、凄いですね」
「はあ?」
 合同で授業をしている最中、休憩していれば隣に座る千寿は五条にそう告げた。
 彼女──真玉千寿は少し前まで呪術も、呪術師とも縁のなかった人間である。大元を辿れば何処かの家系には入っているのかもしれないものの、本人の家は全く縁が無い状態だ。
「それ、誰かから聞いたわけ」
「はい、夏油先輩が教えてくれました」
 地元でデタラメに低級を祓っていたのをスカウトされたらしい彼女は、高専に編入してから日々こうして呪術や呪術界について自主的に勉強している。
 今まで知らなかった自分の一つ上の人間が御三家という事に、今気が付いたようだった。
「……だったら何だよ、今更俺にいい顔しとこーとか思ってるわけ?オマエも単純だね」
 眉をひそめながらそう五条が吐き捨てれば、千寿はきょとんとした顔で見つめた。
「え?いえ……そういう小説の話みたいなことが本当にあるんだな、って思ったんですけど」
「……は、え、何。そんだけ?他には?」
「他?他ですか、ええと」
 逆に問いかけられて戸惑うように頭を悩ませ始めた千寿を、物珍しい眼差しで五条は見つめる。
「あ、じゃあ、お願いしたいことがあるんですが」
「お願い、ね。まあ言ってみろよ」
「御三家…とか、五条家?の事とか、教えて貰いたいです。あ、もちろん私の聞いていい範囲で…」
「……ふ、あっはっは!あー、オマエ本気で言ってる?何だよそれ超ウケる」
「あの、どこに笑う要素が……?」
 上機嫌な五条とは反対に、千寿は困ったように眉を下げて行く。
 わしゃわしゃと大きな手が千寿の髪を乱していけば、五条はひとしきり笑い終えて言葉を続けた。
「いいぜ何でも話してやるから俺に聞けよ、黒歴史とかも全部教えてやるから」
「そ、そういうのはちょっと……というか、あの、五条先輩、髪が」
「……千寿の髪、柔らかいな……つーか頭ちっさ……」
「あ、あの、五条先輩」
 乱雑な手が次第にゆっくりと形を確かめるように千寿の頭を撫でていく。様子の変わった五条に戸惑うばかりで何も言えずに居れば、遠くから夏油の声が響いた。
「硝子ー!悟が後輩の女子にセクハラしてるぞ!」
「はぁ!?ふざけんな傑!!」



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