弧を描く瞳


「はいこれ、お土産」
 そう言いながら五条が差し出して来たのは、いつもの名物菓子ではなく小さなキーホルダーがひとつ。
「え……遠慮します……」
「千寿さあ、絶対食べ物以外受け取ってくれないね?流石に傷付くんだけど」
「そう言われても……あまり物が増えても置く場所とかないので……」
「これくらいなら別にいいでしょ?」
「あとは悟さんが持ってくる物とかなんだか怖くて」
「いやいや酷くない?」
 ぐすん、と目隠しをしている目元に腕を当て泣くふりをする五条に、困ったような視線を千寿は向ける。
「……呪骸の件、忘れたなんて言わないでくださいね」
「え、いや、これは普通のお土産だから!ちゃんと既製品だから!ちゃんと見て!」
 そうやって押し付けられたお土産をじっと観察する。
 土産売り場に置いてあるような、愛らしいご当地の狐のキーホルダー。包装されたそれはどこからどう見ても市販品である事が伺える。
「それにほら、僕も同じもの買ったから」
「そんなにこれ、気に入ってるんですか?確かに可愛らしい狐だと思いますけど……」
「そういうわけじゃないんだよなあ。ほら、千寿に前あげた鍵、あれにつけて欲しくて。あ、もしかしてもう自分で何かつけちゃった?」
「いえ、特に何も」
 そう言いながら取り出されたのは、五条に渡した千寿の部屋の鍵。言葉通りそこには目の前にあるキーホルダーと全く同じものがついている。
「合鍵って言ったらやっぱり同じキーホルダーつけるのが普通でしょ!ね、ほらつけてよ」
「普通、ですかね……?」
 五条の主張に首を傾げながら、そういう事なら、と千寿は受け取ったキーホルダーの封を開け、紐を鍵の穴へと通した。
「大事にしてね。もしボロボロになったり無くしちゃったりしたら言ってよ、また別の用意するから」
「そうですか?ええと、ありがとうございます……」
「どういたしまして!絶対外しちゃ駄目だからね、ちゃんと僕とのお揃いなんだから、大事にしてよ」
「そんなに言わなくても、鍵なんて貴重品ですし無くしませんよ」
「うんうん、だよね!」
 千寿の答えを満足そうに聞きながら、五条は早速付けられたキーホルダーをちらりと見つめて笑みを浮かべた。



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