もっと親しくなりたい


 報告書を提出するために高専へ足を運べば、久々に見る顔に思わず声をかけた。
「お疲れ様、七海さん。私と同じで報告書の提出ですか?」
「いえ、今日は特に任務はなかったので。貴女のことを探していました」
「私を?」
 彼が誰かを探すだなんて珍しい、と思いながら見つめていると七海さんは用件を告げてきた。
「先月頂いたチョコレートのお返しを、と思ったので。持ち歩くには少々危ないものなので、今から私の自宅に取りに来て頂いても良いですか」
「ああ、バレンタインの!別に気にしなくて良かったんですよ?」
「そういうわけにはいかないでしょう」
「七海さんらしいですね……ちょうど用事は全部済ませたので、時間は大丈夫ですよ」
 そう答えて、七海さんの自宅まで一緒に車で向かっていく。

「少し待っていてください」
 そう告げて、七海さんは私を車内に残し家の中へ入っていった。
 彼の家なんて初めて見たな、なんてぼんやりと外観を眺めていれば、暫くして七海さんは何かを持って戻って来る。
「お待たせしました。どうぞ、口に合うかは分かりませんが」
「わあ、美味しそうですね、このワイン……ありがとうございます七海さん」
「いえ、当然の事ですから」
「お返し貰えただけで嬉しいですよ。でも、あまり飲む機会がないので、なかなか減らせそうにないですね……」
 ワインであれば、そんなに気にしなくても大丈夫かと自分の中で解決しようとしたところで、七海さんが再び口を開いた。
「……もし、よろしければなんですが。それを飲むときはご一緒させて頂いても?」
「え、いいんですか?」
「折角ですから、ワインに合う軽食くらいなら用意できますよ」
「う、うわあ、何から何まで……ありがとうございます」
 誰かと一緒にお酒を飲む約束が出来るなんて、と少し嬉しくなる。こういう仕事をしていると、人間関係が希薄になりがちになってしまうため相手を見つけるのに苦労してしまう。
「あんなその辺のチョコレートなのに、こんなに良いお返しを貰って……なんだか申し訳ないですね」
「気にしないでください。私も、貴女とはもう少し話がしてみたかったので」
 一級呪術師の七海さんにそう言って貰えるなんて光栄だな、なんて浮かれていたせいで、彼がどんな顔をしていたのかはきちんと見ていなかった。



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