「今日、時間空いてるかな」
授業終わりに夏油君はそんな事を聞いてきて、不思議そうにしながらも空いてるよと答えた。
「じゃあちょっと共有のキッチンに来て欲しくて」
「キッチンに?」
「先月のお返しだよ」
そう言われてようやく夏油君の意図に気が付いて、ありがとうとお礼を述べる。
「まだ渡してないのに」
「でも、何かすごいの用意してくれたんだよね?」
「まあ、そうだね」
楽しみにしながら一度教室で別れて、ラフな格好に着替えて急いで共有のキッチンに向かう。
「お待たせ夏油君!」
「走ってきたのかい?そんなに焦らなくてもいいのに」
くすくすと笑われては少し恥ずかしくなりながら、手招きされるままに夏油君の前のテーブルへ腰掛けた。
「ちょっと大きいかもしれないけど、一口で食べられそう?」
「え、一口……?多分…」
目の前に置かれたのは普通のチョコレートより少し大ぶりのトリュフチョコのようなもので、一口で食べた方が美味しいのだろうか、何か仕掛けかあるのだろうかと首を傾げる。
「まあ、夏油君が言うなら、頑張って見るけど……」
いただきます、と少し口を大きく開けて夏油君が用意してくれたお返しを口に入れる。
と、思わず吐き出しそうになるのを堪えてむせ返る。
「あー、やっぱり美味しくないよね、ごめんね?こんな回りくどいことをしてしまって」
そう言いながら夏油君はするりと私の顎を掴んで、私よりも大きな口をかぷりと被せてきた。
「ん、ぐ……っげほっ、けほっ」
「大丈夫?はい、お茶飲んで」
手渡されたお茶で流し込みながら、何が起きたのか分からず彼の顔を見る。
「……い、今の、なに……?」
「何って、私がいつも取り込んでるじゃないか」
それを聞いてさっと血の気が引いていく。
取り込んでいる。つまり、あの黒い球体は。
「……君と二人だけしか知らない事が欲しくて。ああ勿論、君に食べさせるつもりは欠片も無かったんだ。ごめんね」
そう謝る彼の顔は、あまり申し訳なさそうには見えなくて。
どちらかといえば、今まで見たことがないくらい嬉しそうな顔をしていた。