賭けの代償


「や、久しぶりだね」
「……夏油、君」
 任務の最中、そう声を掛けてきた男の声に振り向けば、二、三年越しに見る彼に緊張が走る。
「なんで、こんな所に」
「制服じゃないんだね……ああ、そうか。もう卒業したのか。おめでとう」
「そんなわざとらしい御祝いの言葉を言いに来たの?」
 にこりと貼り付けたような笑みでそう告げる彼に少しイラついたように吐き捨てれば、彼はまさかと首を振る。
「君に会いに来たんだよ」
「……何、心変わりでも、したの」
「私の目的は変わらないよ。ただ、少し落ち着いたから君のことを迎えに行かなきゃと思ってね」
「自分の立場、分かってる?」
 なんて事のないようにそう話す彼を睨み付ける。
 私は呪術師で、彼は呪術規定を犯した呪詛師。
 この状況で、迎えに等と何をわけの分からない事を言っているのか。
「……昔、私と賭けをしたこと。覚えているかな」
「はあ?賭け?何の話?」
「お互い卒業までに良い相手が見つからなかったら、私が貰ってあげようか。って」
 その言葉に少し昔を思い出す。確かに、彼と恋人が出来るできないの言い合いをして、売り言葉に買い言葉でそんな賭けをした気がする。
「そうだとしても、私には今付き合ってる人がいるの。確かに夏油君は大事な仲間の一人だったけど、そんな感情は元から無かったわ」
「私にはあったよ。あの時からずっと」
「呪詛師に口説かれたって嬉しくない」
「手厳しいな。でも、君が付き合ってる彼……あれは無効だよ。アレは猿だ、人間じゃない」
「ふざけた事を言わないで」
「ふざけてなんかないさ、本気だよ」
 そう言いながら、彼は私に近付いて一枚の紙切れを見せてくる。
「……っ!」
「賢い君なら、私が何を言いたいのか分かるだろう?」
 見覚えのある男性の、視線の合わない写真を見て背筋が凍る。
「……最低」
「こんな猿に君を汚されるのは許せなくてね。大丈夫、あの子達も君のことを気に入ってくれるよ」
 握られた手を振り解けずにいれば、あの頃のように酷く幸せそうに夏油君は微笑んだ。



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