交流会が終わり京都に戻ってから、私には日課が出来た。
「もしもし、狗巻くん」
「ツナマヨ」
交流会で知り合った狗巻棘君と、日に一回通話で話をする事だ。
「今日はみんなで体術の練習したんだけど、東堂くんがね……それで、三輪ちゃんが……」
つらつらとその日の事を話す私に、狗巻くんは静かに話を聞いてくれる。
とはいえ、呪言師の彼の語彙は限られていて、本当に私の話を聞いてくれるだけなのだが。
「いつも色々聞いてくれてありがとう、あんまりこういう話、京都のみんなとは話しにくいから……」
「おかか!」
申し訳なさそうにそう告げると、強い一言が返ってくる。
会話の中で分かっているのは、肯定と否定のふたつくらい。今のはそんな事ないよ、と言ってくれているのだろうか。
「えへへ、なんか、嬉しいなあ。あ、そういえばね……」
にこにこと楽しげに話を続けていれば、時間はあっという間に過ぎていく。
「……で、その……ふぁあ…」
だんだんと眠気に勝てなくなってくれば、自分で何を言っているのかも分からなくなってくる。
「……すぅ…」
「……ま…し…」
狗巻くんが何かを言っていたけれど、よく聞き取れずにそのまま眠りに落ちていった。
「はっ、ま、またやっちゃった」
目を覚ました時には既に朝で、また寝落ちてしまったのだと理解した。
慌てて着替えて寮を飛び出して、教室へと走っていく。
「おはようっ」
「あら、最近いつも遅いのね」
「ち、ちょっとね」
息を切らせながら席につけば、少し呆れた様子の真衣ちゃんに苦笑いを浮かべる。
「そろそろ本当に遅刻しても知らないわよ。そうだ、今日桃達と新しいお店に行く話をしてたんだけど、貴女もどう?」
「──ごめん。行かない」
「……そう」
はっきりとそう断れば、真衣ちゃんは何処か不満そうに頷いた。何か変な事を言っただろうか。
「今日ね、真衣ちゃんに新しく出来たお店に行こうって誘われたんだ」
「明太子?」
「でも断っちゃった。……あれ?なんで断ったんだっけ……?」
「高菜」
今日も一日の終わりに、狗巻くんと電話をする。
そういえば、最近は学校と任務以外でどこにも出掛けず、ずっと狗巻くんと話しているような気がする。
「東京にまた行きたいな、今度行く時は案内して貰いたいし」
「しゃけ!」
肯定らしき言葉に嬉しくなりながら、狗巻くんと話す話題は一向に尽きない。
「私も東京の高専だったらなあ……ふあ、狗巻くんと一緒に、授業……とか、できたかなあ……」
「しゃけしゃけ」
「こっちが、嫌なわけじゃ、ないけど……すぅ…」
落ちる瞼に抗えなくなれば、そのまま今夜も眠りに落ちていく。
眠る直前、また狗巻くんが何か言っていたような気がするけれど、聞き取れずにそのまま意識は遠のいた。
そういえば、狗巻くんにおやすみって言ったこと、ないかもしれないな。
『また明日』
一言、静かに言葉を残してぷつりと通話は切れた。