液晶越しの運命


「……なんだこれ」
 帰宅途中、道端に妙なものを見つけた。
 カエルのような、そうでないような。羽のついたちょっと気持ち悪いそれが見慣れないものでついついパシャリと手持ちのスマホで写真を撮って投稿した。
『なんか変なの落ちてる。おもちゃ?新種の生き物だったら大発見じゃない?』
 流石に拾ったりするつもりはないのでそのまま再び自宅へと歩き出す。
 帰宅してから再びスマホを見ると、仲の良いフォロワーから先程の投稿に返信が来ていた。
『なんにも写ってないけど、虚無でも撮影した?』
「え?あれ、ほんとだ」
 その返信に投稿した写真を確認すれば、確かにあの変な物体、あるいはいきものは写真に写っていなかった。
『撮り損ねたかな?動いたのかな…つまりは生き物……?新種?』
『いやどんなんだったかわかんないし笑』
『なんかカエルみたいな?羽ついた変なやつ』
 そんな他愛もないやり取りをしながら、もしまた見かけたら次こそ写真に収めて拡散しようと意気込んだ。

 数日後、近所のコンビニに足を運んでいればまたあの謎の物体を見つけた。
 しかも、今度はふよふよと空を飛んでいる。
「うっわ気持ち悪……生きてんのあれ?あっ動画動画!」
 慌ててポケットからスマホを取り出して撮影。直ぐに家に戻って今度こそ、とカメラを確認してみる。
「あれえ?また撮れてない……なんでだろう」
 何度確認しても、何もないただの星空が動画に映っているだけで、あの変な生きものが飛ぶ姿は全く映っていなかった。
『この前撮り損ねた変な生き物、近くのコンビニで飛んでたから動画回したんだけど、また間に合わなかった〜、ショック』
『どんまい』
 こうなると何だか意地でもあの謎の生きものを撮影したくなってきた。あわよくばバズりたい、あとなんか新種の生き物だったら第一発見者として有名になれるかも、なんて打算もあった。
 そんな風に意気込んだはいいものの、あれ以降謎の生きものを見かけることがなくなってから数週間。
 代わりにというわけではないけれど、何だか不気味なものを良く見かけるようになった気がしていた。
 言語として機能していない妙な言葉を繰り返す物体、明らかに人でも生き物でもなさそうなもの。
 写真や動画に撮ろうとしてみても、そこには普通の風景写真が残るだけ。
 他の人には一切見えていないあたり、これが見えてはいけないものだということを今になってようやく理解した。
『なんか最近、やばいものが見えてる気がする…怖いし気持ち悪いしどうしよ』
『大丈夫?疲れてるんじゃない?』
『働きすぎでは?休みなよ』
 弱音を吐けば、心配してくれる返信が届いて少し気持ちが落ち着いてきた。確かに最近は忙しくてまともに休めていない。もしかしてそのせいで変な幻覚を見ているのだろうか。
 そんなに自分の心身が限界に近いのかと危機感を覚えれば、その日のうちに何日かまとまった休暇を会社に申請した。

 仕事を休んで家でのんびりする事にしたものの、妙な音やおばけのようなものが直ぐに見えなくなることはなかった。
 むしろ、悪化すらしていた。
『窓になんか張り付いてる、カーテン開けらんない』
『ずっと変な笑い声が聞こえて眠れない』
 不安を吐露すれば、親しくしているフォロワーも必死な様子が伝わる文面を送ってきた。
『病院行った方がいいよ』
『盛り塩とか御守りは?ないよりマシかもよ』
『近場に住んでたら飛んでいくのに…!無理しないで!誰か家族とか呼んだ方がいいよ!』
 フォロワーのアドバイスに、誰か知り合いでも招こうかと思案していれば突然インターホンが鳴り響いた。
 そっとドアスコープを覗けば、覚えのない怪しげな男が玄関に立っている。そっとチェーンをかけてドアを開ければ、男は優しげな声を発した。
「あの、どちら、様ですか」
「こんにちは、少し話を聞いて欲しくて……ああ、怪しい者ではないですよ」
「すいません、うち無信教者なんで他を当たって下さい」
 袈裟姿の男に警戒して、早々に追い返そうとドアを閉めていく。
「──君、妙なものが見えてるだろう?空飛ぶカエルみたいなもの、とか」
「えっ」
 彼の一言にぴたりと動きを止めた。どうしてそれをこの男が知っているのか。
「やっぱり。この家にも何体か妙なものが憑いてるね。例えば……二階の部屋の窓とか」
「あなた、見えてる、の?」
 信じられない顔で男を見れば、にこりと笑みを返される。
「私はね、君みたいな人を助ける仕事をしているんだけど……君は素質がありそうだね。どうかな?私と一緒に来ないかい」
 ゆっくりと差し出された手に戸惑う。
 きっと、彼は私よりも詳しいことを知っているのだろう。助けて欲しいと言えば、きっと助けてくれる気がする。
 でも、同時にここから先へは行ってはいけないと本能が告げている。手を伸ばせば戻れない、と。
「きっと皆、君の事を気に入ると思うんだ。大丈夫、私が守ってあげるからね」
「あ……」
 彼の背後に見た恐ろしいそれに、咄嗟に彼の手を取った。ぎゅっと握り返されたその手は少し痛くて、やってしまったと全身の温度が下がっていく感覚がした。
「君を見かけた時から、ずっと迎えに行こうと思っていたんだ。これからは私が傍で守ってあげるから、君は私から離れないように」
 まるで恋人にするように、男は私の手にそっと口付けを落とした。



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