動き出す距離


 七海、帰ってくるってさ。
 飄々とした態度でそう伝えてきた五条さんに、いやいやなんて信用なく笑った。
 卒業後に呪術師では無く一般企業への道を歩いた彼が出戻るなんて、と。
 ──そう思っていたのに、目の前には少し雰囲気の変わった、けれど背筋をしっかりと伸ばした彼の姿。
「お久しぶりです。元気そうで何より」
「あ、うん、七海君も」
 ぺこりと丁寧にお辞儀する彼に返しながら、嗚呼本当に戻って来たのかと、嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちが胸に巡った。

 呪術師として戻った彼は空白期間なんて無かったかのように日々仕事をこなしている。新入生の虎杖君に懐かれて、少し賑やかな彼の周りを見るのが嬉しかった。
「懐かれてるね、ナナミン」
「貴女までふざけるのはやめてください」
「ふふ、ごめんごめん」
 じとりとこちらを見つめる彼に謝れば、七海君はそのまま距離を詰めてくる。
「え、ご、ごめんね。そんなに嫌だったなんて」
 怒らせてしまったと慌てて謝れば、彼から帰ってきたのは意外な一言で。
「……貴女には、愛称よりも名前で呼ばれたいですから」
「……え」
 ぽかん、と顔を赤くしながら見れば、七海君は呆れたように息を吐く。
「いつまでも変わりませんね。鈍感にも程がある」
「いや、だって、あの」
「自覚して頂けたようで何より。これからはそのつもりで私と接してください」
 言うだけ言って、七海君はそれではお疲れ様でした。なんて言って去ってしまう。
「……い、言い逃げは、ずるくないかな……?」
 呪術師はクソだなんて言うけれど、さっきの七海君も大概だ。



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