だって僕は、君の事が


 彼女を映画に誘ってみた。
 ものすごく緊張したけれど、あの子は嬉しそうに頷いてくれたので思わず顔が緩んでいく。
 小さめのポップコーンと飲み物を買って、がらんとした映画館で席に着く。
「昔の映画って見たことないから楽しみだな」
「これは公開日数がそんなに多くなかったみたいだから、昔もあんまり観れた人居ないみたいだよ」
「そうなんだ、じゃあ私たちラッキーだね」
 嬉しそうにそう微笑む彼女のひとつひとつが、やっぱり好きだなぁと感じてしまう。
 予告の前から席に着いてくれる所とか、携帯をきちんと切るところだとか。ポップコーンをひとつずつ食べるところも可愛いと思ってしまって、映画そっちのけでつい彼女を何度も盗み見る。
 ふと。彼女の視線は映画に向いたまま、その手が自分の方へと伸びていく。
 自分の買った飲み物のカップを手に取ったかと思えば、そのまま何事もなくストローに口を付け、て……。
「……っ!?」
「……あ…っ!?ご、ごめんね……!?」
 ハッとして慌ててこちらを向いて小さく謝る彼女も、自分の飲み物と間違えた事に気がついたのだろう。
 それからは、映画に集中なんてお互い出来るはずも無く。
 映画館から出れば、何となく気まずいまま並んで歩いていく。
「……順平君、さっき、ごめんね」
「えっ、あ、いや」
「わ、私は嫌じゃなかったけど、順平君は嫌だったよね」
 少し恥ずかしそうに頬を染める彼女を見て、つられて顔を赤くしながら、上擦った声で勢い良く否定した。



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