指先でおくる


「おーい、そろそろ帰るぞ」
「はーい」
 東京といえど、高専は郊外にあるうえに入れる業者が限られているため、定期的に買い出しへ街まで真希ちゃんと棘くんと、三人で出かける日がある。
「ツナマヨ」
「あ、いいのに棘くん、私ぜんぜん持てるよ」
「おかか!」
「あ、ありがとう」
 買い込んだ大量の荷物を、ひょいと棘くんが横から持ち上げていく。
 お互い力がある方じゃないのに、棘くんはいつも私に優しくしてくれる。
「棘くんは優しいね」
「……おかか」
「またまた、謙遜しないで」
 そう告げるとむす、とどこか不満げに此方を向く棘くんに、不思議そうな顔をすれば真希ちゃんに遅いと少し前からどやされた。
「……こんぶ…」

 そんな買い出しの次の日から、何だが棘くんの様子がおかしいと感じたのはすぐの事。
「あれっ?棘くん今日私が日直だよ」
「めんたいこ!」
「え、あ、黒板消してくれてありがとう……?」
「しゃけ!」
 いつもより何かと色々手伝ってくれたり、気にかけたりしてくれている様子に戸惑いながら、こそこそと真希ちゃんとパンダくんに相談する。
「な、なんか、この前の買い出しから棘くん変なんだけど……」
「お前……鈍いな……」
「もうちょっと棘を気にしてやれよ」
「えぇ…?」
「おい棘!此奴何も分かってないぞ!」
「あ、ちょっと、真希ちゃん!」
 少し離れた席で日誌を書いてくれていた棘くんは、ぴくりと此方を向いたかと思えば、酷く不機嫌そうな顔をしてずんずんとこちらに歩いてくる。
 そう、あの顔は、買い出しの時と同じ少し不満げな表情で。
「おかか!」
「あ、ご、ごめんね棘くん、私何も分かってないみたいで、怒らせちゃって……」
 慌てて謝れば、彼はぐいっと私の手を引いて何故か指を広げさせる。
 何が起きたか理解していない私をよそに、大きく開いた手のひらに、そっと棘くんは指を滑らせて。
「……?す…え、あっ!?」
 きゅ、と書きたい言葉を書き終え棘くんは満足そうに笑顔を向けていて、私は茹でダコみたいに真っ赤になって。
「しゃけ!」
 と、彼の意図に気付けばこれからどう接していこう、と悩みの種が増えてしまった。



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