恋バナですよ、先輩


「千寿ちゃんは五条くんのどこが好きなの?」
「……どこ、とは」
 某日、夜も更ける頃。
 遠方へ任務に出ていた千寿と雪花は宿泊予定のホテルの一室で眠る準備をしていれば、そんなことを不意に雪花が問いかけた。
「五条くんから千寿ちゃんの話はよく聞くけど、千寿ちゃんから五条くんの話はあんまり聞いた事ないな、って」
「そう、ですかね?」
 何を言われているのだろうかと少し不安が募るものの、確かに千寿が雪花と話すことと言えば任務のこと、生徒のこと、世間話ばかりだと思い返す。
「あ、あとね、その……こういう時はやっぱり、恋バナとか、したいなあって」
 照れくさそうにそう白状した雪花に、そういう事ならと直ぐに天秤は誰かの(主に雪花の恋人の)差金では?という懸念から尊敬する先輩へと傾いた。
「でも、そうですね、すぐには思い浮かびそうにないんですが」
「え、優しいところが好きとか……顔は?五条くんモテる顔だって傑君も言ってたよ」
「優しい……?顔……」
 雪花の一例に、何を言っているのだろうと首を傾げる。
「ち、千寿ちゃんは五条くんと付き合ってる……よね?」
「え?はい、お付き合いしてると認識していますが」
「好きなところがあるから付き合ってるんだよね?」
 予想外の反応に、戸惑うように確認する雪花を見て千寿は申し訳なさそうにする。
「すみません、私はその……雪花先輩達みたいに恋愛感情から五条さんと付き合ったわけじゃ、なくて」
「そうなの?」
「雪花先輩は、夏油先輩の何処が好きなんですか?」
 参考までに、とそう問いかければ雪花少し考えてから顔を赤くしていく。
「どこ……わからないくらいとにかく傑君はかっこよくて……どうしよう、好きになっちゃう」
「……雪花先輩達、付き合ってますよね?」
 可愛らしい反応にほっこりするものの、よく分からない事を言い出した雪花に首を傾げる。
「……少しだけ雪花先輩達が羨ましいですね、そういう所は」
「ほ、ほんとに無いの?五条くんの好きなところとか」
「好きなところ……好きなところ……あ」
 ふと顔を上げながら、千寿はどこか思い出したような顔をする。
「あった?五条くんの好きなとこ」
「好き……というわけじゃ、ないんですが」
「うんうん」
「その、たまに私に合わせてくれてるんだろうなと、思うところは」
「そうなの?」
「……私の本気で嫌な事は、多分、してないと思いますし、その、無理に触れて来ない、ような」
「そっかあ、優しいね」
「優しい、ですか?」
 にこにこと話を聞く雪花に、千寿は段々と恥ずかしそうに顔を赤くしていく。
「……悟さんには、言わないでくださいね」
「うん!女の子同士のひみつだね」
 ご機嫌な雪花につられて微笑めば、その日はそれでお開きにした。


「あれ、五条くん?傑君も」
「おかえり雪」
「雪花だけ?千寿は?」
 翌日高専に戻れば、入口には五条と夏油が待っていたようにその場に居た。
「千寿ちゃんはそのまま書類とか出しに行ったよ」
「なあんだ、せっかくお出迎えするのに待ってたのに……え、何その顔」
 残念そうにため息をつく五条に、雪花はにこにこと微笑ましい表情を向ける。
「良かったね、五条くん」
「何の話?」
「良かったな、悟」
 ぽん、と夏油までもが肩を叩いてにこりと笑みを浮かべた。
「え、何なの二人して気持ち悪いんだけど」




- 5 -

*前次#


ページ: