「またこんなに散らかしたのか」
ガチャリと勝手知ったるように自宅の扉が開けられる。
同時に開口一番キィニチの口から出たのは、そんな呆れたため息だった。
「えへへ……だってみんな色々くれるから……」
キィニチが見渡しているこの部屋には、人から貰った宝石、鉱物、アクセサリーやレコード。それから懐いている竜達が持ってきてくれた植物や果物。様々なものが棚や机、挙句床にまで広がっている。
「だからって部屋に適当に置きっぱなしで、何が必要な物か分からないだろう」
「うわっ、相変わらず汚ぇ部屋だなあ!俺様がぜんぶ焼き払ってやった方が早いんじゃないか?」
アハウにまでそう言われてしまうと、流石にまずいなと思い直せば寝転んでいた身体を起こしていそいそと身近なものに手を伸ばす。
「うう、ごめんなさい、すぐ片付けるから」
「いい。お前がやってもいつも片付けたとは言わないだろう、物を移動してるだけじゃないか」
「うぐ、し、辛辣」
「俺が片付けておくから、お前は昼の買い出しにでも行ってきてくれ」
「はぁい……」
キィニチに渡されたお使いのメモを受け取れば、自分の雑さに自覚があるため言われた通りに買い出しへ出かける。
しばらくして家に戻れば、踏み場のなかった床が顔を覗かせていた。
必要なものはきちんと棚に置かれて、机の上にはキィニチが淹れたショコアトゥル水が用意されている。
「す、すご〜い!キィニチは相変わらず片付け上手だね!」
「お前がだらしなさ過ぎるんだろう」
「は、はい、すみません」
「にゃはは、次は何日この状態が続くんだろうな?」
「もう、ちゃんと維持できるように頑張るってば」
「あと何回、俺はその台詞を聞けばいいんだろうな」
ちくちくと双方から釘を刺されてしまえば、いたたまれなくて思わず台所へと逃げていく。
お礼を兼ねて昼食の用意をしようとした所で、ふと思い出したようにキィニチへ問いかける。
「あ、そういえば昨日手紙を渡されたんだけど……何処かに置いてなかった?」
「手紙?誰からだ?」
「部族の人から、帰ってから見てほしいって言われて」
「……いや、大事な書類や手紙は引き出しにしまったが、そんなものは俺が掃除している時も見ていない」
「え?うわ、どうしよう……もしかして昨日間違えて他の物と一緒に捨てちゃったかな」
「というか、本当に手紙を貰ったのか?」
「も、貰ったよ!昨日……あれ、貰った、よね?」
「お前の事をよく知っている奴なら、手紙を渡しても忘れられてしまう方が多い事なんて分かっているだろう、用があるなら直接話すんじゃないのか」
「酷い言われよう……いや、そうなんだけど……でも確かにみんな直接言ってくれるし、あれ、何か記憶違いしてるのかな」
「だいたいいつもそうだろう、本当に間違えて捨てたなら、後で確認してくるかもしれないしな」
キィニチの話に、それもそうかと納得すれば少し気が楽になる。
「そうだよね、キィニチが間違えて捨てるなんて事は無いんだし、私の勘違いかも!」
「お前と違って、俺は必要な物はきちんと取っておくし不要な物は直ぐに捨てるからな」
「う、言葉が痛い」
「だから、まあ……今後も俺が要らないものはきちんと捨ててやる」
「ありがとう、もう私キィニチが居ないと駄目になっちゃうよ〜」
「けっ、能天気で馬鹿なヤツ」
悪態をつくアハウをよそに、ふ、と笑みを浮かべるキィニチに、いつも申し訳ないなと思いつつも頼りきりになってしまう。
──いつも見捨てず、必ず部屋を片付けてくれるキィニチのその笑みに裏がある事なんて露知らず。