例え偽物でも、隣にいたかった


※アハウ→夢のほぼ一方通行
※キィニチの死体/死亡表現があります。
※アハウのキィニチの身体に対する扱いの酷い描写があります。

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「キィニチは死んだ。契約に従いコイツの身体はオレ様が貰い受けた。つまりアイツのものは全て吾輩のもので、当然お前もオレのものって事だろ?」
 叩かれた扉を開けてみれば、キィニチによく似た「誰か」は、自分に向かって淡々とそう告げた。
「し、んだって、なに、ふざけてるの」
「だぁから、アイツは仕事でしくって死んだんだよ!キィニチの身体はこの偉大なる聖龍クフル・アハウ様のモノになったんだ!」
 キィニチと瓜二つの姿でそう話す「誰か」の言葉にハッとする。アハウと聞いて、彼の横でいつも賑やかにしていたあの小さな姿を脳裏に浮かべた。
「あ、アハウ……?なん、で、冗談…やめてよ。また私の事からかってるんだ?も、もう、笑えないよ……キィニチの格好なんかして、それどうやってるの」
 へら、とぎこちなく口角を上げようとしながら、震える声でアハウを窘める。きっと直ぐにキィニチが追いかけてきて、悪ふざけをしている彼を叱ってくれるはずだと、そう信じて。
「冗談なんかじゃない。アイツはもう居ないんだよ、諦めろ」
 そんな期待をよそに、アハウはキィニチの姿で、あの声で、当然のように告げる。普段の何を考えているか読めないあの表情のようで、どこかそれより冷えたその目に現実を突きつけられたようだった。
「そんなワケだから、これからはお前とオレ様の二人だけで過ごせるんだぜ!今までずーっとアイツが居るのが邪魔だったんだよなあ」
「……か、えして」
「あ?なんだよ」
「かえして、キィニチ返してよ…っ」
「はぁ〜?なぁに寝惚けたこと言ってんだよ。この身体はもうオレ様なんだ、返すも何もあるか」
 信じられないといった顔をあからさまに見せるアハウを見つめながら、姿はキィニチそのものなのに、その声や表情はまるで見た事も、聞いたこともない別人のそれに戸惑いながら言葉を紡いだ。
「いきなり来て死んだなんて、信じられないに決まってるでしょ、何かあってキィニチの姿になってるだけなんじゃないの、ねえ、キィニチを返してよ」
「お前……っそんなに馬鹿なヤツだったとはな!何度でもこの優しいアハウ様が言ってやるよ、キィニチは死んだんだ、ここに居るのはアイツの身体を貰った吾輩だけなんだってな!」
「し、知らない!嘘言わないで、キィニチをどこにやったの、返してよ!」
 ムキになって言い返してきたアハウに、負けじと喚くように主張する。
 タチの悪いイタズラだと、やり場の無い感情をぶつけるように近付いて来ようとしたアハウを軽く突き飛ばす。
「……チッ、何なんだよ。さっきからキィニチ、キィニチって」
 はぁ、とため息をついたかと思えば彼はじっとこちらを見つめて段々と笑みを浮かべていく。
「そんなに信じられないんだったら──いいぜ、返してやるよ」
「え」
 返す、とアハウが告げた瞬間。
 ごとん、と鈍い音を立てて目の前にいたキィニチと瓜二つの身体は床へ横たわった。
「……き、キィニチ?」
 恐る恐る倒れた身体に近付いていけば、そっと様子を確認する。
 横たわる姿を見て、もしかしたらキィニチは眠っていて、その間アハウが乗り移っていただけなのかもしれない、とその顔を覗き込もうとする。
 ──焦点の定まらない、濁ったようなその眼にさっと血の気が引いていくだけだった。
「……き、にち……」
 声にならない息を零しながら、そっと肩に手を重ねる。
 男とはいえ柔らかいはずの肉はどんどん熱を失い冷えていく。揺すろうと軽く動かした身体は、ぴくりとも動かない程に固くなっていく。
 突き付けられた現実に、思考も感情も追いつかないまま勝手に涙が溢れはじめる。
「吾輩は偉大なる聖龍だからな、気に入ってる女の頼みくらいひとつは聞いてやるのが優しさってもんだろう?」
 キィニチの低い声とはまた違う、少し高い聞き馴染みのある声が響いたかと思えば、すぐ耳元で囁いてくる。
「ほら、返して欲しかったんだろ?どうだ?優しーいオレ様がアイツの身体を返してやったろ?」
「ちが、ちがう……」
「何だよ、さっきまで返せ返せって喚いてたクセに。まぁ、オレ様はお前になら優しいからな?さっきの言葉、取り消したっていいんだぜ?今なら代償は取らないでやるよ。何せ今は気分が良い!」
 からからと愉快そうに笑うその声に、弄ばれているのだと感じるもキィニチの冷えていく身体に何も言い返せなかった。
「ごめ、なさ…キィニチを、ころさないで」
「ハッ、だからもう死んでるんだっつーの!」
 下品な笑い声と共に横たわっていたキィニチの身体は再び熱を持ち、動き出す。
「あーあー、可哀想な奴!そんなに泣くならせいぜいオレ様から離れずにアイツの身体を見守っておくんだな!」
 動き出したキィニチの身体に安堵したのか、アハウがこの身体を使っている限り、キィニチの身体だけは遺るのだと縋ってしまった罪悪感か。
 止まらない涙を拭う「彼」に、ただ謝罪の言葉を紡ぐしか出来なかった。
「ごめんなさい、私、わたし……ごめんなさ……っ」
「せいぜい縋ってろよ、コイツの身体でどれだけ居てやるかは吾輩の気分次第だからな」
 もう面影も見えない笑みをたたえながら、底意地の悪い龍は無遠慮に触れてきた。



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