「お邪魔します」
「もう、そんなに堅苦しいことは言わないでくれよ、僕と君の仲だろう?」
開かれた扉に緊張しながら足を踏み入れれば、フリーナ様は不服そうに頬を膨らませながら自分の手を取った。
「どうだい?僕の住まいは」
「えっと、凄く綺麗ですね……それに広いです」
「ふふん、君が来ると決まってから毎日念入りに掃除をしたからね!当然だとも!」
褒められたことに気を良くしたフリーナ様は胸を張りながらそう説明して、上機嫌にリビングを抜けて行く。
「でも君に見てもらいたいのはリビングじゃなくて……こっちこっち!」
手を引かれるまま後ろをついて行けば、彼女はある部屋で足を止めゆっくりとその扉を開けた。
「じゃーん!どうだい、気に入ってくれるかな」
「わ、わあ……!可愛いですね!」
部屋の中を見れば大きな天蓋のベット、同系色で統一された家具、可愛らしいぬいぐるみや装飾の数々。
どれもこれも自分の好みで思わずはしゃいで部屋を見回していれば、かちゃん、と軽い金属音がした。
「……フリーナ、さま?」
「気に入ってくれて良かったよ、これは全部君の為に用意したものだからね」
閉められた扉を背に、フリーナ様はじっとこちらを見つめてくる。
「あの、どうかしたんですか」
「ふふ、今日からここは君の部屋だからね、何でも自由に使ってくれ。足りないものがあるなら後から用意しよう!だから、もう君は何もしなくて良いんだ」
こつり、こつりと。靴音を立てて近付いて来たフリーナ様はこちらに腕を回してきて、それからなだれ込むように二人ベッドへ倒れた。
「食事も僕が用意……あ、いや、たまには君の作ったものも食べたいけど……いや!全部僕が作る!だから君はここに居るだけでいいんだ」
「フリーナ様?あの、急にどうしたんですか」
「急じゃないさ、ずっと僕は君と一緒に居たいんだから、君をここに置いておくのが一番だろう?」
「そうは言っても……あ、お泊まりですか?でも今日は予定してなかったので、着替えも何も無くて」
「ち、ちがう!そうじゃなくて……き、着替えまでは考えて無かった……こ、こほん!それも全部僕が用意しよう!」
気を取り直すように咳払いをしてそう続ける彼女を、黙ってじっと見つめていればみるみるうちに不安そうな表情が顔を覗かせる。
「え、えーと、君は……君はこういうのが好みなんじゃなかったのかい……?」
「こういうの、とは」
「ぐ、偶然クロリンデ達と君が話しているのを聞いてしまったんだ、君は、その、束縛の激しい方がタイプだって……」
不安そうな顔をしてそう説明するフリーナ様を見て、ふと思い当たることがひとつ浮かんだ。
「フリーナ様」
「な、なんだい…?も、もしかして僕のこと嫌いになったとか…?」
「なりませんよ。あのですね、フリーナ様が聞いたというのは稲妻の小説の話だと思います」
「……小説?」
「最近新しく入った稲妻の物語で、その……少し重い内容になるんですけど。クロリンデさんと話していたのはその登場人物の話ですね」
「そ、それじゃ、恋人にこういう事を求めてるんじゃないのかい……?」
「私、ありのままのフリーナ様が大好きですよ。無理に好みに合わせようなんてしなくていいんですから」
そう説明しながらそっとその手を握っていけば、ぎゅ、と同じくらいの力で握り返される。
「……そ、そうなのか……よかった……」
「でも、このお部屋が素敵なのは変わりませんから、今度はここでお泊まり会しましょう?」
「そ、そうだね!せっかくこれだけ用意したんだ、片付けるのも勿体ないし、ナヴィアやクロリンデも誘って……」
「私、まずは二人きりでお泊まり会したいなって」
ぽつりと告げた言葉を聞いた彼女は、少し呆けた顔をしてから、どこか嬉しそうに瞳を輝かせて何度も頷いた。
「っも、勿論!恋人との大事な時間は必要だからね!」
──後日、件の稲妻小説を読んだフリーナ様が泣きながら「僕は君の命を奪ったりなんかしないからあ!」と街中で叫んでひと騒動あったのは、またしばらくあとの話。