08

雲ひとつない快晴のもと、今日も今日とてゴーイング•メリー号は大海原を進んでいる。

その日の朝方。
「へぇ〜! リタはやっぱり女なのか! すげぇ可愛いもんな!」
「でしょ♡ ありがとうチョッパー♡ ……なんてな、ははっ、お前騙されやすいなぁ、オレは男だよ」
「ええ〜ッダマされた!!」
「はははっ。……チョッパーも可愛いよ?」
「ええ〜そんなこと言われても嬉しくねーぞこのヤローばかやろー!」


「……」

 
その日の午前。
「ナミ、この服ちょうどよかったわ。ありがとうな!」
「あら、それガッツリ女物なんだけど、あんた似合うわね!」

「……!!!」



その日の午後。
「ふーんゾロ使ってる刀は業物なんだ。太刀も使えたらカッコいいよなぁ、ちょっと教えてくれよ」
「あ? やなこった。……なんだお前、刀使えんのか」
「短刀や長ドスならある程度。刀身が短い方が小回りがきいていいんだよ」
「はっ、分かってねぇな。身長低いのにかこつけてるんじゃねェ、筋肉がないから使えねぇんだ。いいか、刀ってのは……」

「……」




その日の夕刻。
「ロビン、この本面白かったよありがとう。他になんかある?」
「もう読み終わったの? 早いのね。続編も面白かったから貸すわ」
「おー嬉しい、ありが「いやちょっと待てぇぇぇぇ!!!」

甲板に悲痛な叫び声が響き渡った。

「あぁ? なんだよ煙草野郎ウルセェな。いきなり大声出してんじゃねぇよ情緒不安定か」
そう言うとリタは至極不快そうに、今し方叫び声を上げたサンジを見やった。
リタというのは、つい先日「居候(?)」としてメリー号に乗船した青年だ。
もっとも、本日の彼は真っ黒な髪を高めに取ってポニーテールにし、ナミから借りたのであろう真っ白なニットとスキニーの組み合わせを見事に着こなしており、一目で「男だ」と言い当てることのできる人の方が少ない容姿をしていた。
特技は変装らしく、口調も声色も変えられるようであるが面倒なのかこの船の上では地声で喋っている。

「いや朝から黙って見てれば情緒不安定にもなるわ! なーにが『ナミ、この服ちょうどいい』『ロビン、この本面白かったよ』だ! うちの船のレディどもに気に入られたいからって色目使ってんじゃねぇ! そしてナミさんの服を着るなんてなんてうやらま……いや、万死に値する!!」
「いやいや勝手に拉致られて出航されて服もなにも島に残してきちまったんだから仕方ねぇだろ。今から取りに戻ってくれるのか? それと色目は使ってねぇけどあんたもナミとロビンと仲良くしたいならすればいいじゃねぇか」
そんなサンジとリタの応酬に、
「そういえば今更だけどあんたって前の島に住んでたの? 勝手に出航させちゃったかと思うと流石に悪いわね」
と話を聞きつけたのか蜜柑畑から出てきたナミが割って入ってきた。
「いや? 特に定住はしてねぇよ。盗人家業だし。まぁ元から貨物線忍び込んだり海軍の船隊員のフリして乗り込んだりして適当に島は渡ってきたからいいんだけどよ」
「行き当たりばったりねぇあんたの人生……。ま、服に関してはまた貸してあげるからそれでなんとかして」
「お〜助かるぜ」
「ふふ、私の服も似合いそうね」
「んー。ロビンの服はオレの身長だとあわねぇかなぁ」
「〜〜〜!!!」
声にならない叫びがサンジから発される。
「てってめぇ、ちょっと見た目が女っぽいからって、男なんだからな! そこのところ理解してレディと接しろ……!」
「いや、してるけど? なんなんだよお前は」
これまで不快をあらわにしていたリタが、「お前本当に面倒なやつだな」と眉を下げて今度こそ可笑しそうに小さく笑って。風邪に吹かれた黒いポニーテールの束が白いニットの上でコントラストを成して揺れた。男だと分かっているのに、こういった仕草はなかなか「女」として様になっていてサンジは非常にやりにくかった。

「なぁ、結局この船はどこの島を目指してるんだ?」
リタが改めて問うた。リタ自身グランドラインの荒れた海をいろいろな船で航海していたから分かるが、ここ数日はひどく穏やかな天候が続いている。安定した気候帯なのだろうか。

先日のルフィの説明があまりに説明の体を成していなかったので聞き直したところ、彼らは「麦わらの一味」で懸賞金のかかった海賊であると言うこと、ついこの前まで空島という空の上にある島にいて、現在は長旅をしてきたこの船を修繕してくれる船大工を探しているとのことだった。
「そうね、ログポースに従ってはいるんだけど」
とナミが言いかけたところで
「おい、あの船なんだぁ?」
と見張りをしていたウソップが頓狂な声を上げた。

(海にいるのに海賊旗もなければ海軍の軍艦でもない)


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