逆襲


※軽い情事描写有

「顔、凄いよ?」
仕事の書類を呪みつけている恋人の顔がいつにも増して険しい。そんなに重大な事件なのか。温かいココアの入った マグカップを差し入れるのと同時にちらりと書類を覗き見た。本当に重大な仕事なら秘密結社に所属している私の前で読む筈がないのだ。紙に細かい字で書かれていたのはなんてこともない業務連絡。ならば尚更その表情の真意がわからない。そして私は冒頭の一言を彼にかけたのである。
「あー、……読めねぇンだよな」
2拍ほど黙ってからぼそりと吐き出した言葉についつい、口角が上がる。
ことり、とマグカップが机に置かれて控えめな音を立てた。机から身を乗り出すようにしてダニエルの額に手を伸ばす。
「こんな前髪してるからだよ絶対」
左目を隠す前髪を掻き分ければ普段は隠されているその目が私の瞳と絡まる。
どくん。
その瞬間、心臓が飛び出すんじゃないかと言う程に心拍数が跳ね上がった。それをどうにか気付かれぬ様私は髪から優しく手を離し、ダニエルと再び距離を取った。

「もしかして、もう老眼?」

そう誤魔化す様にジョークを投げかけるとダニエルは少し唇を尖らせて「うるせえ」と一言だけ吐き、話題を断ち切った。
恋人という関係に収まったというのに、どうゃら未だに私の心臓はこの幸福に慣れていないらしい。
「まっ、まって…!」
与えられる感覚の多さに脳は甘い薄れを起こしている。呼吸一つで涙が溢れるほどの幸福感と快感が自分の体を占領する。
ひっきりなしに私の身体に快楽を注ぎ込んでくる本人はさっきから私の声に一度も耳を傾けてはくれない。
「せめ…て、でんき、けして…!」
こんなにも明るい寝室では恐らく全てが彼の瞳に映っているのだろう。
はずかしい、と泣き出しそうな声色で懇願するも私を見上げたダニエルの視線は意地悪で、私の頼みを聞く気など欠片も持ち合わせていないだろうということが伝わって来る。私の肌から唇を離してダニエルが口角を上げ微笑んだ。

「心配すんなよ、俺は “老眼"らしいからな」

ああ、失敗した!