「………警部補さんは、しゅうまつには何がしたいですか?」
霧が濃い。白く霞んだ世界の中、少女のなんでもない問いが隣の男へと投げられる。二人の表情を覆い隠すほどの霧は、夢と現の境をあやふやにした。思えばそれは、霧ではなくスモッグの類だったのかもしれない。問われた男は胸ポケットから煙草を取り出して一本、口に咥えた。そのまま火を点し、細く煙を吸い込むと、問いに答えるために少女の方へ首を傾げる。
「週末?…買い出し行って寝る。」
「いやいや、そっちじゃなくて。この世の終わりとか、そっちの方です。」
白い煙越しに男の表情が曇ったのがわかった。毎日が終末の様な街で態々聞くなと言いたいのだろうか。男はいつのまにか短くなっていた煙草を携帯灰皿に押し込むと、何でもない事だとでもいう様にぽつりと言葉を零した。
「さあな、仕事でもしてるだろうさ。…今日だって、作戦が失敗でもすりゃ世界は終わる。…そう考えりゃ、世界が終わるっつうのも存外呆気無いモンだろ?」
「も〜…悲観的だなあ、ダニエルくんは。」
「お前に言われたくねえ。…つか、終末の話でどう考えりゃ楽観的になれんだよ。」
あはは、と少女の悪戯っぽい笑い声が響く。例え話だよ、なんて冗談を言えば例えで済む話題じゃねえ、と刺々しい声が返ってくる。
世界を救う傍らでする話と言うには、余りにも日常的な時間であった。
「…なあ、あき」
表情すら視認出来ない、霧で出来た白い壁の向こう。手を伸ばせば届く筈のその距離が、やけに遠い。
「なぁに、ダニー」
男は躊躇いながらも、硝子細工へ触れる様に、或いは何かを懐かしむ様に。そっと優しく|終末≪少女≫へと手を伸ばす。
__触れた頬には、涙が伝っていた。