運命なんてクソくらえだ


「そういう運命だったんですよ」
目を伏せてそう零す目の前の恋人の表情が、ダニエルは嫌いだった。普段は文句を言いたくなるほどにわかりやすい恋人がその二文字を持ち出すときは何かを我慢して妥協をする時だけだからだ。何を押し殺しているのか、聞けばきっと彼女は表情を一度曇らせた後「なんでもないよ、ごめんね」と笑うだろう。その表情も、ダニエルが嫌いな顔の1つだった。隠すなと言うことが出来たなら、どれだけ楽だったか。秘め事が溢れる秘密結社の一員に惚れてしまったのだ、仕方がない。
…なんて、言えるわけがない。
「……運命なんざ、糞食らえってンだよ」
ぼそりと、零した言葉が恋人の耳に届く。じわり、じわりと丸い目が見開かれていく。逃げたがりの恋人に言葉の壁で阻まれる前に、ダニエルは言葉を連ねていった。
「運命ならしかたありませんねハイ諦めましょうっつって俺が納得するとでも思ってンなら諦めろ、俺はお前が思うより面倒くせえぞ。」
ジャパニーズな恋人の黒い瞳は、覗き込んでいるだけで転げ落ちそうになる。まるで、どこにも行き場のない深淵のようだ。
その瞳に自分の顔が映る。焦っていて余裕のない表情だということが自分でもわかった。そんなことに構っていられない状況だということも。
二、三度ぱちぱちと瞼を合わせた恋人が小さく言葉を紡ぎ出す。
臆病者の恋人の会話が、今日も夜を焦がして行く。