幸せの便り 3


「このまま、この関係を続けると……いつかは子供が出来るわ」

その言葉を聞いてベジータは頭がグラグラした。
いや、別に子供が出来るはずは無いなどと考えていたわけではない。
それぐらいの知識ぐらいベジータにだってある。
ただ、今混乱しているのは何故、今それを言うのかということだ。
『出来た』ではなく、『出来るわ』
似ているようでその二つはまるで意味合いが違う。それはつまり…
「俺の子を宿すのが嫌だということか。」
別に自分はそれを望んだわけではない。けれど拒んだわけでもない。
彼女を初めて抱いた時からそういう可能性があることも当然理解していた。
それでも彼女と夜を過ごしてきたのはそうなっても別に困ることはないと思っていたからだ。
しかし、そう思っていたのは自分だけでこの目の前の女はそうでは無かったということか?
ベジータはその顔に自嘲めいた笑みを浮かべた。
所詮、この世には真の意味で彼を受け入れる者など何処にも居やしないのだ。
そう思うと何だか急に頭の中がクリアになった。
「嫌なものを押し付ける気はない。」
そうだ。そんなことをしてもこの女が不幸になるだけだ。
ただの赤ん坊といえども地球人のそれと同じようにはいかないはずだ。
成長すれば尚更、どうなるかわからない。
下手をすれば彼女を殺すような事にならんとも限らないのだ。

ブルマが死ぬ?
…。
………。
何故か考えただけでも息苦しくなった。

終わりにしよう。今すぐに…。

「邪魔したな」
後ろ髪を引かれるような思いだったがベジータはその場を出て行く事に決めた。出来ればこの家からも…。
望まぬ結果で彼女を苦しめる気はない。
けれどこの家に居てはその決意もいつ揺らいでしまうかわからない。
そうなっては困るのだ。俺はこの女を事の他気に入っていた。
それを今頃になって気付くとは何と皮肉な事か。
ベジータは廊下へと繋がるドアを目指して歩き出した。
「ちょっと待ってよ!」
「っ…!」
そうはさせないとばかりにブルマが彼の腕にしがみ付いた。
「どうして勝手に決めちゃうの?私はまだ何も言ってないでしょ?」
何も言ってない?言ったじゃないか!俺の子は産みたくないと。
……。
本当に言っただろうか?
いや、このままだと子供が出来るとは言ったがその先は何も言っていない。
だが、それでもやはり彼女は産みたくないと思っているはずだ。
今夜、彼を拒んだのがいい証拠ではないか
「私は出来たら嫌だなんて思ってないわ!寧ろその逆よ!!」
「!?」
信じられないとベジータは思った。では何故俺を拒んだのだ?
彼は解せないという面持ちで彼女を見やった。
それに答えるようにブルマは言う。
「だってアンタが嫌がるんじゃないかと思って…もし出来てしまったら…。」
ブルマは自分にとってそれが何よりも怖いものだと思った。
自分だけでなく、子供までが彼から拒否を受ければこれほど悲しいことはない。
そんな未来にだけにはしたくなかった。だから今夜彼を拒んだのだ。
「結婚とか夫とか父親の役目とか、そういうのはアンタが嫌なら強要したりしないわ。でも…もしアンタの子供が出来てしまったら、アンタの子である事まで否定されたくないの…」
そう言うブルマの瞳からは一筋の涙が零れた。
「だから…もしもその可能性が少しでも有るのなら…避妊はして欲しいの。でも、それすらも駄目だって言うなら、私は…私は…」
それ以上、彼女には言葉を続けて欲しくないと、ベジータは思った。
その先を言われるのは正直今の彼には耐えられそうにない。
ベジータはブルマが言い終わらないうちに彼女を引き寄せると彼女の背中に腕を回し、彼女をぎゅっと抱きしめた。
「ちょっ…」
「俺は避妊はしない」
「!…だったら今す…ぐ」
「出来たら勝手に産めばいいだろう!俺は拒否しない!」
喜びもしないかもしれないが…
こればかりはそうなってみないとわからない。
何しろ女に子供を産ませた事など一度もないのだから。
「本当に?」
「ああ…」
だから何も気にせずに今まで通り俺に身を任せていればいいんだ。
そのような気持ちを込めてベジータは深く、それでいて優しく再び彼女に口付けた。
「嬉しい…」
互いの唇が離れた時、彼女はそう言ってその幸せそうな顔を彼に向けた。
それを見たベジータは自分が何か暖かいもので包まれているような気がして思わず彼女を抱く腕に力を込めた。
そっと目を閉じる。暫くはこの余韻に浸っていたい気分だった。



- 3 -


[*前] | [次#]



TOP


Elysium