ぎるぎる 1


最近、このカプセルコーポレーションに新たな住人、いや、住ロボが加わった。
名前はギルと言うらしい。悟空や悟空の孫のパンと一緒にドラゴンボール探しに行っていたトランクスが宇宙から連れ帰ったマシンミュータントだ。
聞くところによるとこのギルはあの憎たらしいツフル人の技術によって生み出されたらしい。
以前ベビーによって肉体を支配されていたベジータにとって、きっと奴らを思い出させるロボットが家の中をうろつくのは気分の良いものではないだろう。
そう皆は思っていた。
しかし、当の本人にとってギルは別にどうでもいい存在だった。
ツフル人の技術が生み出したからといってギルそのものには責任は無いし、だいたいツフル人の技術を毛嫌いしていたわけでもない。
現にベジータは他人の気を探る能力を身に付けるまではスカウターを使用していたし、長期に渡って使用してきた戦闘服も地球に来てからはブルマが作っていたとはいえ元々はツフル人が発明したものだった。
使えるものは使い、邪魔なものは排除する。
つまりはベジータにとってギルはどちらにも値しない関心すら向けるべき相手ではなかったということだ。
これまでは…。

「おい」
ベジータは今や破片しか残されていないトレーニングマシンを睨み付けながら室内の隅に隠れているつもりらしいギルに話しかけた。
今日という今日はアレを許してはおけない。
今まで何度か、あのマシンミュータントはこの重力室に侵入し、ベジータにとって必要不可欠に近いトレーニングマシンを空腹を満たすために食べてきた。
何故寄りにもよって宇宙一危険かもしれない男の持ち物をわざわざ危険を侵してまで食べようとするのか?
ギルに言わせればグルメだから。ただそれだけである。
彼にとって唯の鉄くずも美味しい食事には変わりないが、高性能のマシンはもっと美味しい食事。
それを思えば普段ベジータが使用している重力室にはギルを惹きつける魅惑の果実というべきマシンが盛り沢山なのだ。
「お前が今回食べたコイツはな、俺が此処に来て初めてブルマの父親に作らせた修行ロボットだ。」
あれからベジータの成長に合わせて改良に改良を重ね、現在では当時とは比べ物にならないくらい高性能のマシンとなっている。
謂わば、ベジータにとって、この食べられたマシンは彼と一緒に育ってきた掛け替えのない友人のような存在だった。
説明しながらベジータは重力室の扉にロックをかけた。とりあえずは、これでヤツの自力脱出は不可能になるだろう。
危険であるという理由から修行中はロックをかけた本人か、ロックをかけた者から解除コードを聞いたその場にいる人間、もしくはロックを無条件に解除できる特別コードを持っている家族しか扉を開けられない仕様になっているからだ。
まあ他にも方法は有るには有るが、どちらにしろこのマシンミュータントには無理な方法だろうとベジータは想定する。
「いい加減に出て来たらどうだ?時間の無駄だ。」
けれどギルは出てこなかった。
あらゆる危険を察知できる能力を有した彼にとって危険人物の前にひょこひょこ顔を出すなどはあり得ないことだ。
「なるほど。ではこちらから行くとするか」
カツカツと近付いてくる足音にギルは直ぐさま反応した。
美味しい食事を食べたばかりで逃げ回る分のエネルギーぐらいは確保できているつもりだった。
「ギルル〜〜!!ギルギル〜」
どれぐらい逃げれただろうか?数分?数十分?いや数時間?ギル自身にはとても長く感じられた。
それもそのはず、ベジータはわざと捕まえようとせず追い回していただけなのだから。
「ほぉ?動きだけはなかなかのものじゃないか」
もしかしたらトランクスでも捕まえるのに苦労するんじゃないか?
ベジータは喉を鳴らした。
しかしそれもちょっと飽きてきた。
ベジータはギルの足をぎゅっと掴むと逆さ吊りにしてその顔と目が合う高さになるまで腕を上げた。
「覚悟は出来たか?ガラクタ」
いくら何でも破壊はしないつもりだった。
それをすればギルを友人のように可愛がっているトランクスが悲しむと思ったからだ。
だからベジータは少し痛い目に遭わせてギルを反省させる。
その後の事は逃げるだろうギルをそのままに、すんなり解放してやるつもりだった。
けれどベジータの目論見を全く知りもしないギルはベジータのその言葉にこれ以上ない危機感をつのらせた。
ここで最大の防御と言うべき攻撃を仕掛けなければ確実に殺(壊)される!
ギルは本能に従った。
「キケン!キケン!ベジータ、キケン!」
ギルが叫び声を上げたと同時に彼の胸部からミサイルが放たれた。
咄嗟の事に驚いたベジータはギルをその手から離し自身をガードする。
が、コンマ数秒の遅れにより運悪くミサイルが頬をかすめた。
そこから少し血が滲み出る。
「このクソ野郎が…」
ベジータの怒りは頂点に達した。
ここまで来ると彼の中に眠らされていた残虐なベジータが頭をもたげ、ギルを大事にするトランクスの事など頭から吹き飛んでしまった。
「くらえぇぇ!!」
ベジータの手からエネルギー弾が放たれた…



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