ぎるぎる 2


「はぁ〜っ、今日も疲れたなぁ」
今やカプセルコーポレーションという大企業の社長となったトランクスは送迎の車から降り、自宅の玄関ホールへと足を踏み入れた。
疲れたと言ってもこの日、取引先との会合があったわけでもなく、唯々デスクワークを強いられていただけなのだが…正直、人と会ってる方が秘書の監視もゆるくて気が楽だと思う。
要するにトランクスの言葉は気疲れから出たものだった。
「ギルの奴、大人しくしてたかな」
彼の友人は当初、トランクスの行く先々に付いて回った。自宅では勿論、他の友人宅、職場、女の子とのデート先、それこそ場所を選ばなかった。
トランクス自身もそれを喜んでいたし、彼にとって普通のことだと信じて疑わなかったのだが、どうやら周りの人間は彼ほど寛大では無かったらしい。
行く先々で最初は物珍しさからギルを歓迎する声は多かったが慣れてくるとちょこちょこ周囲を飛び回るギルが段々と鬱陶しく感じてきたのか余り良い顔をしなくなった。
トランクスはその異変に気付き、初めは、勝手な奴らだと他の人間を相手にもしなかったが、つい先日、会社内でトラブルが起きてしまった。
カプセルコーポレーションが総力を挙げて開発中だった新商品の試作品を皆が休憩中、目を離した隙にギルが食べてしまったのだ。
流石のトランクスも開発メンバーの苦労を蔑ろには出来ず、ギルを責め立てた。そして皆が望む通り会社への出入りを禁じたのだが。
悟空やパンがギルの傍に居ない今、彼の近くにいる友人はトランクスのみ。
そのトランクスとも昼間は引き離され正直可哀想だなとは思う。
しかし、世の中は彼中心に回っているわけでは無いのだから慣れてくれと言う他ない。
その代わり、自分が家に戻った時は彼の友人としてたっぷりの愛情を注いでやろう。
トランクスは小さい体の友人を思いにっこりと微笑んだ。
「ギル〜!戻ったぞー!何処に居るんだ〜?ギル〜!」
大きな声で名前を呼ぶ。いつもならこう呼べば直ぐに彼はトランクスの元にやってくる。今日もそうなるだろうと予想していた。
しかし、ギルはいつまで経っても現れなかった。
「出掛けてるのか?」
パオズ山にでも行ったのだろうか?
トランクスはリビングに向かい、そこにある家族の予定が記されているボードを確認した。
普段、唯でさえ行動が別々になりやすい家族は子供達が成長してから家の中で顔を合わせることが以前よりだいぶ少なくなった。
その為、お互いの行動を把握するのがより難しくなった。
なので、前もって予定がわかってる時や急に用事ができた時はここに書き込んで他の家族が心配することがないように気配りしようということになっている。
トランクスがドラゴンボール探しをしに宇宙に旅立つ前には無かったギルの名前が彼によって追加されたのはつい最近のことである。
といってもギルはまだ地球の文字を書けないので書いているのはトランクスかギルに頼まれたブルマかブラなのだが…
ギルの予定の所には現在、何も書かれてはいなかった。
ということは家の中に居るか、もしくは書き忘れ。
どちらも可能性はある。けれどやっぱり書き忘れでは無いだろうか?
トランクスは自分の声が聞こえていたのなら必ず自分の前に現れていたはずの友人を思った。
「帰ってきたらお仕置きだな」
何かを躾けるのは大変だと彼は苦笑をもらした。
「あ〜あ。折角遊んでやろうと思ったのに」
もしパオズ山に行ってるのならーートランクスにはそうとしか思えなかったーー俺も行こうかな?
などと考えていると上の階の重力室でベジータの気が大きく膨れ上がったのを感じた。
「えっ!?」
普段、ベジータはこの家へのダメージを考え、あそこまで気を大きくはしない。
なのに今は家への影響など考えていないかのように気を高ぶらせている。
要するにキレている時のベジータなのだ。
「母さんと喧嘩でもしたのかな?」
言ってみて、しかしやっぱりあり得ないだろうと考えを改めた。
両親が夫婦喧嘩を繰り広げるのはそれこそ日常茶飯事のことだが、そういう時は決まってベジータはどちらかが折れるまで家を出て行ってしまう。
離れて過ごしお互いが頭を冷やせば、結局、お互いがどれだけ相手を思ってるのかがわかり、次にどう行動すれば良いのか知ることができるというように。
実際、揉め事の殆どはその方法で片付いているようだ。詳しい事はトランクスにもよくわからないが。
だから夫婦喧嘩なら父親は既に家にいないだろうし、何より、数日前からブルマは南の都へ出張中だ。戻るのも明日の夜。目の前の予定表にそう書かれている。
ということは、ベジータは他の理由でキレているのだ。
しかし、あれほどまでに父親を怒らせる存在など悟空さん以外にあるだろうか?
「ま、まさか…。」
呼んでも現れず、予定表にも何も書かれていなかった友人…。
高性能な機械をみるとすぐに囓ってしまう友人…。
そんな友人に最近重力室のものを食われたと愚痴をこぼしていた父親…。
その行いをギルに何度か注意したトランクス…。
もしかしたら状況は最悪の方向に向かってしまったのかもしれない。
トランクスは着ていた上着をリビングのソファーに脱ぎ捨て、全速力で最上階を目指した。



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