山鳥毛+南泉一文字
昔住んでいた家の近所には、不思議な屋敷があった。幾人もの男の人がすんでいて、庭に面した道場からは稽古の声ばかりが聞こえてくる。
その中でも、会うといっつも構ってくれる青年がいた。どら猫、子猫と呼ばれているから私が呼ぶ名前も猫のお兄ちゃん。そして猫のお兄ちゃんが、お頭と呼ぶ大きな背丈の男性がいた。この人はたまに笑って御菓子をくれたのだ。
「夕飯が入らなくなっては親御さんに悪いからな」
猫のお兄ちゃんが、お頭のお兄さんの前では縮こまってるのが面白くって。小さな私は、お頭のお兄さんのお膝の上に乗っかるのが大好きだった。
「子猫もついこの間まで、このぐらいだった」
笑って頭をなでてくれた手のひらは大きくて厚くて、ふと思い出しては懐かしむ類の記憶。大きな手のひらに似つかわしくない、小さな飴玉をくれた思い出の中の人。