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おまえのこころ





chapter:さん




ジリジリ焼けるような暑さ。わたしたちの部屋のどろどろした熱とは違う。太陽と、人の熱気、立ってるだけで制服が汗ばむ。それでも幾分かは暑さ控えめな校舎の影で、わたしは彼に「ごめんね」を告げた。理由は、言えない。彼の顔を見ることもできない。彼が何か言いかけて、口をつぐむのが気配でわかる。わたしが聞いても答えないっていうのを悟って、ああ、この人のこういう、察することができるところが、一緒にいて心地よかったんだなあ、なんて、今更思った。
それでもしばらく間を置いて、「わかった」とたった一言。いつもならフォローの言葉とかあるのに、今回はさすがにそうもいかない。彼の頬からぽとりと垂れる水滴が汗じゃない何かに見えて、結局わたしは最後まで彼の目を見ることができなかった。





(あつい……)

フラフラしながら帰路に着く。夏季補講は午前中で終わりだからお昼頃には帰れるものの、昼頃の日差しの強さったらない。アスファルトに照り返す熱が容赦なく襲いかかる。汗が止まらない。自転車ならまだ風をきって涼しいのかな。不毛なことを考えながらつい目に入ったコンビニに避難する。涼しい。天国。
お昼、どうしようかな。昨日の夕飯の残りが冷蔵庫にあるけど…おにぎり、お弁当、パンが陳列する棚をなんとなく眺めながら、これといって食べたいものもなく。結局アイスコーナーでバニラバー一本買ってお店を出た。家に帰る頃にはどろどろになってそうだし、食べながら帰ろう。

…バニラバーか。彼がよく食べてたっけ。わたしにもよく買ってくれたなあ。無意識に、選んじゃったのかな。
舌の上の冷たさ、なんでだろう、なんだかあんまり味がしない。ぼーっと見つめていると、溶けたアイスが指を汚し、そのままぽとりと地面に落ちた。さっきの彼みたいに、地面に痕を残す。何故だかその痕から目が晒すことができず、しばらく突っ立っていると不意にクラクションを鳴らされた。我に返って慌てて端っこに寄る。

「ヘイガール。そんなところ突っ立ってたら危ないぜ」
「…カラ松先生」

キラキラ光を反射する青い車。窓から顔を覗かせたのはカラ松先生だった。ばちんとウインクをされ軽く会釈を返す。そのまま歩き出そうとしたら慌てた声が飛んできた。

「ちょっ…ウェイト!ウェイト日向!」
「なんですか?」
「フフン、折角出会えたんだ、そんなすぐ立ち去らなくてもいいだろう。もう少しこの出会いを楽しもうじゃないか」
「先生今日学校は?」
「休みを取ってある」

今度は指もつけてばちんとウインクされた。相変わらずだなあ。カラ松先生、隣の学校の体育教師で遠い親戚。遠いっていう割には兄さんと顔そっくりだけど。一応先生だから、カラ松先生って呼んでる。
言葉の通り、そうやすやすと解放してくれるつもりはないようで。ご飯がまだということで近くのファミレスに連れて行ってもらった。注文を終えるとカラ松先生は指を組んでこちらを見つめてきた。

「なんですか?」
「ん?最近どうかと思ってな」
「どうって」
「高校生活…それは人生のオアシス…一瞬の煌めき、そして永遠のトレジャー…」
「何言ってるのかわかんないです」

独特な言い回し、兄さんに言われればあばらもってかれる話し方。首をかしげるとカラ松先生はまた気障ったらしく首を横に振った。

「あんな憂いを帯びた顔してちゃな…せっかくの夏が台無しじゃないか」
「憂い?」
「見たところ恋愛関係だな」

ぴくっと肩がはねてしまった。それをみてカラ松先生はビンゴォ〜?とばきゅんと指をうってくる。無駄に鋭い。

「まあ…そんなところですね」
「フッ、青春してるじゃないか」
「青春終わりましたけど」
「ン……ン?」
「ついさっき」
「それは…振られたってことか?」
「いや振られたんじゃなくてわたしが」
「oh…ジーザス…!なんてことだ日向が振られるなんて!たしかにオツムが足りない点はあるし特別可愛いかと言われれば全くそんなことはないが…!何故振られてしまったんだ!」

聞いちゃいない。その上無礼にもほどがある。

「俺のかわいい妹分を振ったのはどこのどいつだ?待ってろ日向、お前の改善すべき点たっぷり聞き出してきてやるからな!」
「たっぷりあること前提なんですね」

すぐにでも飛び出していきそうな勢いのカラ松先生、相変わらず自分の世界に酔ってるなあ。でも頼んでたランチプレートが運ばれてくると今度は子どもみたいに目をきらきらさせてお肉にかぶりついてる。そんなところも相変わらずだ。カラ松先生が家にいたら毎日賑やかそうだなあ。そう考えて頭を横に振る。あるわけない、いろんな意味で。
冷めないうちに食べろ、美味しいぞと言われてわたしも料理に手をつける。今度は、ちゃんと味がした。


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