chapter:1 女が振り向くよりも早くその腕を掴み、足を払えば一瞬体が宙を浮く。そして次の瞬間にはがつんと背中を床に打ち付け、か細い悲鳴と共に肺の空気が吐き出された。 「かはっ……」 蹲って咳き込む女を見下ろすと、苦痛と困惑が混ざった表情で女もこちらを見返して来た。涙が張った瞳、中途半端に起こした体の動きがぎくりと止まる。 ごつり、重い音を立ててブーツが床を擦り、女の横に膝をつく。怯えた目で細い息を吐く女の顎をがっと掴んでやればまたその顔が苦痛に歪む。 「ダ、ン…テ」 懇願する声音。弱々しく首を横に振る。でも今更遅い。もう一度日向を床に押さえつけ、腹に跨る。こうなってしまえば、弱々しく静止をかける涙声も、服を引き裂く音も、どうしたってこの行為を止めることはできない。それは、俺も彼女も、これまでの繰り返しで分かりきったことだった。 「も、ぃ、ア…ッ!!……」 「…おい、トんだか?」 埃っぽい床の上で、女の鳴き声が木霊する。ひたすらに与え続けた快感に、首を仰け反らした後日向の体が弛緩した。一度動きを緩めるが、声をかけても返事はない。 「チッ…まだ付き合ってもらうぜ」 だが、果てが見えたからといって、第一置き去りにされたまま終わりにするつもりなど毛頭ない。燻ったままの怒りは燃え上がる一方で、消える様子などまるで感じられなかった。 力の抜けた体を無理矢理反転させると、白い肌に忌々しく映える赤に眉を顰める。包帯から滲みはじめた血液はいく筋も線を作っていた。床に擦れ続けたのだ、きっと痛いだろう。そう思えばますます体は激しく疼き、歯止めがきかなくなっていく。荒い息を吐きながら再び奥に突っ込み、包帯を剥ぎ取る。そのまま傷跡に舌を這わせると、痛みと快楽に女の意識が覚醒したらしい、びくりとナカが震えた。 「いッ…あ、あ、あああ!」 「勝手に休むんじゃねぇよ」 「ひ、ア!ごめ、なさ…ィ、あ、あああああっ!!」 抉るようにナカを突き、背中に爪を立てれば、女が絶叫した。痛みなのか快楽なのか、どちらにしても許容できる刺激ではないのだろう。ぼろぼろと涙を零しながら謝り続ける彼女を見ても、それでも罪悪感を抱かない自分の残酷さがますます己の怒りを煽る。どうしてこんなにも腹が立つのだろうか。一段締め付けを増すナカに歯を食いしばり、それでもクッと喉が鳴った。 「甚振られて感じるのか。とんだ変態だな、お嬢さん」 「ア、ダン、ダンテェッ…!イあ!」 「これなら…ッ、アイツにも可愛がってもらえるぜ」 「や、あ…いやあッ…!」 普段の俺なら思いもしない言葉が、つらつらと口から出てくる。傷の痛みと、律儀にもその言葉一つ一つに彼女が首を振り嗚咽を漏らすものだから、俺はようやく自分の怒りを鎮めることができる。俺の言葉で傷つけられるくらいには、日向は俺のことを思っているのだと。 彼女を傷つけることで安心感を得ていると気付いたときは「ああ、やっぱりな」と、妙に納得してしまった。その時にはもう手遅れだった。そして同時に、それはもう遠い昔の話でもあり、こうなるのはもう俺たちにとっていつも通りの出来事なのだ。 日向の血で赤く染まった指先に唇を寄せた。日向の血液。それだけでまた己の血が滾る。俯き震える日向の顔を捉え、強引に振り向かせる。泣き濡れた日向の、弱々しく喘ぎ俺の名を呼ぶ唇に自身のそれをぶつけた。そのまま食い破ってやればまた口の中に血の味が広がった。どうしてこんなに美味いのだろう。この上なく甘美なそれにますます欲が煽られ、夢中で舌を這わせる。 「日向…ッ、いくぞ…受け止めろよ」 「ィッ、あ、あ!」 だらだらと流れる血。真っ赤になった背中と唇。ああ、俺の色だ。 腕を引き腰を打ち付ける。声にならない声を上げる女。駄目押しとばかりに一番敏感な突起と背の傷を指で引っ掻いてやった。途端まだそんな力があったのかと驚くほど強く体が暴れ、それを更に強い力で押さえつけながら、やがて共に絶頂を迎えた。喉を反らし、食い千切らんばかりの締め付けに、奥の奥に熱を吐き出した。 出し切った後もゆるゆると腰を振り、漸く手を離すと同時に日向の体が崩れ落ちる。意識はない。とっくに限界を越えていたはずだ、無理もないだろう。己の衣服を整えながら、足元に転がる血と汗に塗れた体を爪先で小突く。やはり反応はない。ごろりと仰向けに転がして、涙の跡のいく筋も残る日向の顔を見て、漸く先の行為にほんの僅かな後悔が芽生えた。 可愛がってもらえるなど、そんなことあるわけがない。そんなことがあれば相手は、それが例え兄でも甥でも、確実にこの手で殺しているだろう。そして、日向自身にもどんな仕打ちをするかわからない。それこそ、今度は殺すことになるのだろうか。 死んだように眠る日向をもう一度見つめる。そんなことが起こらなかったとしても、俺はいつか日向を殺してしまうのではないだろうか。こいつは、俺に殺されることをどう思うだろうか。 日向は、許してくれるだろうか。 |